色んなことに疲れ果てて魔が差したシリーズ。
Introduction
将棋のプロ棋士はみな矜持をもった勝負師であるだろうから、「お前の全盛期はいつだ?」と聞かれたら、多くの棋士が桜木花道のごとく「俺は今なんだよ!」って答えるかもしれない。
しかし、まぁ理想と現実は常に乖離するものだから、統計的に見た場合の規則性は何かを語ってはくれるだろう。
ということで、簡単な分析で以下の問いを解く。
- 将棋棋士の全盛期はいつか?
- 全盛期は戦型によって違うのか?
ふたつめの問いは、「大山康晴名人がキャリア後半に振り飛車を指していたのは、研究時間があまり必要がなかったから」などの言説に着想を得ている。
これはあくまでも現時点でのクロスセクショナルな年齢効果/時代効果/コホート効果を区別できていないので、あくまでも素描でしかないのだが。
データ元URL
①は生年とプロ入り年の、②はRatingの、③は戦型分類*1のデータを取得させていただいた。
作り上げたデータはこんな感じ*2
> rate_df[1:3,] Rank Name Rate Age Class Class2 Class3 Age2_div100 Age3_div10000 1 1 藤井聡太 七段 1945 17 B2 B2 B級2組 2.89 0.4913 2 2 渡辺明 三冠 1937 36 A A 名人・A級 12.96 4.6656 3 3 永瀬拓矢 二冠 1925 27 B1 B1 B級1組 7.29 1.9683 Shimei type No Ken Birth Debut Debut_Age 1 藤井聡太 居飛車 307 愛知 2002 2016 14 2 渡辺明 居飛車 235 東京 1984 2000 16 3 永瀬拓矢 居飛車 276 神奈川 1992 2009 17
分析①:お前の全盛期はいつだ?
才能の代理変数としてのデビュー時期
個人の才能のようなものを測ることができればいいのだが、直接の指標はないので、
デビュー時期(「20歳以降にプロになったものはタイトルをとれない」言説などに依拠)を代理指標とする。
具体的には、デビュー年齢(プロ入り年- 生年の簡便法なので正確な年齢ではないが)を以下のカテゴリに区分する。
- 17歳以前
- 18-19歳
- 20-21歳
- 22-23歳
- 24-26歳
- 27歳以降(アマからの編入など)
基本モデル
そして、以下の基本モデルにより推定をおこなう。
はレーティング、は年齢、はデビュー時期である。
年齢は一次近似や三次近似も試みたが、二次項までの投入が一番モデル適合率が良かった。
全盛期は約24歳
推定結果は以下の通りであった
Coefficients: Estimate Std. Error t value Pr(>|t|) (Intercept) 1514.48442 91.11204 16.62222 < 2.22e-16 *** Age 10.70958 4.51992 2.36942 0.0189864 * Age2_div100 -22.41058 5.33156 -4.20338 4.3232e-05 *** debut_cat-17 143.33211 28.60160 5.01133 1.3958e-06 *** debut_cat18-19 65.56900 22.16516 2.95820 0.0035551 ** debut_cat22-23 -36.01991 24.79990 -1.45242 0.1483067 debut_cat24-26 -54.89761 22.20743 -2.47204 0.0144617 * debut_cat27- -35.31097 40.79510 -0.86557 0.3879987
デビュー時期は最頻カテゴリであった20-21歳を基準にしてある。
やはり早期デビュー組はレーティングが高く、17以前にデビューしたものは20-21歳でデビューした者に比べ、143.3ほどレーティングが高くなる計算だ。
ちなみにそこにカテゴライズされる棋士は
藤井聡太,渡辺明,永瀬拓矢,豊島将之,羽生善治,山崎隆之,増田康宏,佐々木勇気,谷川浩司,阿久津主税,屋敷伸之,阿部光瑠,森内俊之,森下卓,塚田泰明,先崎学,島朗(現Rating順)
年齢の一次項の係数は10.70958、二次項の係数は -0.2241058なので
歳が推定された「全盛期」となる。
「ピークは20代半ば」との藤井七段の言葉もあり、また羽生九段が七冠制覇したのは25歳だと考えると、おおむね正しい推定値なのではないだろうか。
mainichi.jp
分析②:戦型によって全盛期は異なるか?
先ほどのモデルに戦型の主効果と戦型×年齢、戦型×年齢二乗項、の交互作用を足して推定する*4。
するとこうなる。
Coefficients: Estimate Std. Error t value Pr(>|t|) (Intercept) 1548.39 15.98 96.87 < 2e-16 *** Age_c 12.70 5.61 2.26 0.02502 * Age2_div100_c -24.75 6.73 -3.67 0.00033 *** debut_cat-17 135.85 28.90 4.70 5.7e-06 *** debut_cat18-19 72.12 22.86 3.15 0.00193 ** debut_cat22-23 -36.79 25.79 -1.43 0.15566 debut_cat24-26 -56.67 22.62 -2.51 0.01325 * debut_cat27- -41.85 41.01 -1.02 0.30905 type振り飛車 -9.81 20.99 -0.47 0.64103 typeオールラウンダー -53.75 24.80 -2.17 0.03169 * Age_c:type振り飛車 1.71 14.21 0.12 0.90457 Age_c:typeオールラウンダー -21.52 13.47 -1.60 0.11195 Age2_div100_c:type振り飛車 -1.60 17.11 -0.09 0.92572 Age2_div100_c:typeオールラウンダー 23.42 14.86 1.58 0.11698 --- Signif. codes: 0 ‘***’ 0.001 ‘**’ 0.01 ‘*’ 0.05 ‘.’ 0.1 ‘ ’ 1
年齢や年齢二乗項と戦型との交互作用は有意ではなく、戦型によって全盛期は異ならないという結論が導き出される。
プロットしても居飛車党と振り飛車党の間に、明確な差異は見受けられない。
Conclusion
棋士の全盛期は24歳で、それは居飛車党でも振り飛車党でも変わらない、ってのが結論。
まぁあくまでも回帰による予測っていうのは「条件付き平均」を求めるものなので、こういう当たり前の結果に落ち着きがち。
でも年齢効果/時代効果/コホート効果を区別できるデータをつかったら「羽生世代効果」とかが強烈に見出されるんだろう。
Mr.Children 「innocent world」 MUSIC VIDEO
Enjoy!!!