【データ検証】マッシモ名古屋は本当に「先行逃げ切り特化型」なのか?それはなぜか?
データから見るマッシモ名古屋シリーズ*1
◆Outline
- Introduction: グラぽにおける問題提起
- 分析:マッシモ名古屋は「他チームと比較しても」先行逃げ切り特化型なのか?
- 補足的な分析:「先行されるとズルズル型」チームの共通点
- Conclusion
Introduction: グラぽにおける問題提起
マッシモ名古屋=「先行逃げ切り特化型」説の提起
清水戦(3-1)のレビュー記事@グラぽにおいて、現在のグランパスは「先行逃げ切り特化型」である、という説が提起された。
grapo.net
この記事では、リードされた状態でグランパスがHTに突入したときには、100%負けるというデータがラグ氏から提示され、多くの名古屋サポが*2衝撃をうけた。
引かれた相手を崩すことができないマッシモ名古屋は、やはり「先行逃げ切り特化型」なのであろうか。
「先行逃げ切り特化型」説の検証の必要性
ラグ氏の提起された説は、確かに、われわれの実感と見事に符合する。
今のグランパスは、引かれた相手を配置の妙やパスワークで崩す仕組みも、空中戦で押し切るパワープレー力も備えていない、と皆が感じているのではないのだろうか。
ただしここで冷静になって考えてみると、「先行逃げ切りは果たしてマッシモ名古屋だけの特徴なのか?」という疑問も浮かびあがってくる。
サッカーはそもそも点が入りにくいスポーツだし、相手が出てこないと苦労するのは名古屋だけではないだろう。
少数であるが、下のように「先行逃げ切り特化型」仮説の根拠となるデータの解釈に慎重な声も上がっていた。
データの解釈は難しいですね・・・
— doctor K (@Kazushi8) 2020年9月28日
むしろ守備的と言われる中で前半でリードしてる試合これだけあるのはすごいなとも思う
他チームとの比較にどこまで意味あるかと言われるかもしれませんが上位陣の前半ビハインドでの成績は
C大阪 0勝0分2敗 FC東京 0勝2分3敗
逆転勝ちって難しいですね https://t.co/d6xqWQniBR
確かに厳密に考えれば、「先行逃げ切り特化型」であることが、マッシモ名古屋だけの特徴なのか否かは、「他チームがHT時点でビハインドの場合の勝ち点取得率」と比較したうえで判断される必要があるだろう。
そこで本稿においては、Football Lab*3のデータを用いたうえで、
マッシモ名古屋が本当に「先行特化逃げ切り型」であるかを判断したい。
分析:マッシモ名古屋は「他チームと比較しても」先行逃げ切り特化型なのか?
上記記事で、ラグ氏は以下のように述べておられる。
お分かりでしょうか。
今年、これまでのグランパス、ハーフタイム時点でリードしてたらほぼ勝つ。同点でもまあ勝つ。リードされてたら負けます。
支配率を見ても、リードしてたら自分達はボールを持たなくなる。一方、リードされてたらボールを持って攻撃しようとするんだけど、そこまでの反発力を持たずそのまま負ける、とデータからわかりますね(分母は少ないですが………)
最終的な勝敗だけで判断するにはケース数が少ないかも..という留保もラグ氏はつけていることからも、いくつかの指標からの検討を試みる。
「リードされてたらボールを持って攻撃しようとするんだけど、そこまでの反発力を持たずそのまま負ける」という点に関しても、検証してみたい。
データ引用元はFootball Lab, 対象期間は2020/9/30までに開催された2020シーズンのJ1全176試合である。
データの取得方法に関しては以下記事を参考
ronri-rukeichi.hatenablog.com
メイン指標の確認:追いつけないのは名古屋だけか?
20/10/2時点での、ビハインドでHTを迎えたときの平均勝ち点(Y軸)とそもそものビハインドでHTを迎える確率(X軸)をプロットしたものが下図である。
ちなみに、HTをビハインドで迎える割合(X軸)の全チーム平均値=0.298 、HTでビハインドの場合の平均勝ち点(Y軸)の全チーム平均値=0.314であった。
上図から確認できるのは、以下のようなことである。
- マッシモ名古屋は確かにビハインドでHTを迎えると勝ち点をとれない。しかし、HTビハインド時の平均勝ち点がゼロのクラブは名古屋以外にも5クラブ(セレッソ、鳥栖、湘南、横浜FC、清水)ある。1/3(=6/18)のクラブはHT時のビハインドだと勝ち点を獲得できずに終わるのである。
- 逆に川崎、柏はHT時に劣勢でも平均で1以上の勝ち点を獲得しており「先行されても逃げきられないチーム」だといえる。次いでガンバ、横浜FM、鹿島が続いている。
- ただし名古屋はそもそもビハインドでHTを迎える確率がとても低いチーム(3/19試合=15.8%)であり、リーグ全体でみてもセレッソ、鳥栖、川崎についで4位タイである。
マッシモ名古屋は先行を許すと弱いのは確かであり、川崎*4・柏といった「追いつく力」があるクラブとはその意味で差があるが、HT時にビハインドであると勝ち点を獲得できないクラブは名古屋以外にも5クラブ存在している。
少なくとも勝ち点ベースで判断したとき、マッシモ名古屋を「先行逃げ切り特化型」とするならば、ロティーナセレッソも「先行逃げ切り特化型」としなければならないだろう。
関連指標の検討:リードされた後半そもそもシュートが打てているか?
ラグ氏自身も指摘している通り、そもそも名古屋(やセレッソ)はリードされて後半を迎える試合数自体が少ないので、ただ単に「運が悪い」可能性も否めない。
いわゆる「下振れ」が、ビハインドでHTを迎えた場合の「平均勝ち点ゼロ」にあらわれている、という見方だ。
シュートは打てているのに、相手GKの攻守に遭ったり、枠に嫌われたり...という可能性もある。
また、ラグ氏が指摘するところの”リードされてたらボールを持って攻撃しようとするんだけど、そこまでの反発力を持たずそのまま負ける”傾向を確かめるためには、ビハインドで後半を迎えたときのボール支配率もみなければならない。
そこで、ビハインドで後半を迎えたときの各チームのボール支配率およびシュート数を示したのが、下図である。
ここから、以下のことがわかる。
- リーグのなかでみれば、名古屋はビハインドで後半を迎えたときに極端にボールをもたされているわけでもなく*5、極端にシュートが少なくなっているわけではない
- ただし、「ビハインドでHTを迎えている勝ち点をとれるクラブ」の代表格である川崎と柏は、確かに名古屋より少ない支配率で高いシュートを打っている
- しかし、「ビハインドでHTを迎えている勝ち点をとれるクラブ」の第二グループであるガンバ、鹿島、横浜FMは名古屋よりも高い支配率である。よって、後半追いつくうえで、必ずしもボールを持たされること自体が致命的であるというわけではない。
限定された指標ではあるが、以上からうかがえるのは、名古屋は、ビハインドで後半に突入したときの戦い(方)がそこまでリーグのなかで特異なわけではない、ということである。
しかし、追いつかれたら厳しいという現実を変えるためには、戦い方を変えねばならないかもしれない。
上図でいえば、「あまりボールを持たされ過ぎずにシュートで終わる」方向性(柏のような)に舵をきるのがよいのかな、と個人的には思った。
補足的な分析:「先行されるとズルズル型」チームの共通点
先の分析で、名古屋、セレッソ、鳥栖、横浜FC、湘南、清水がHTでビハインドの場合に勝ち点がゼロのクラブであると確認された。
彼らの共通点を何か見出すことができるだろうか。
ビハインド時にサポーターがフラストレーションを溜めるのは、「ボールは回る、されど進まず」というという状況である。
この点に関して、Football Labでは、試合ごとの各クラブの「敵陣ペナルティエリアへの侵入回数」のデータが揃っている。
残念ながら、時間帯別ではこの指標は得られないが、すべての試合を対象としてデータを確認してみよう。
X軸にボール支配率を、Y軸にPA侵入回数をとってプロットする。
上図から、「ポゼッションの高いチームほど敵陣PAへの侵入率が高い」という傾向がみてとれる(相関係数は0.6306)。
図中の回帰直線より上にプロットされているクラブは、ボール支配率の割にPA侵入率の高いクラブであり、
回帰直線より下に位置しているクラブは、ボールを長くもっていてもあまりPA侵入できない「ボール保持の効用が低い」チームである、といえる。
ここで、HT時点でのビハインドを跳ね返せない6クラブ(名古屋、セレッソ、鳥栖、横浜FC、湘南、清水)の図中の位置を確認していると、全クラブが見事に回帰直線より下方に位置している*6。
すなわち、HT時点でのビハインドを跳ね返せないクラブは、ボール保持を敵陣深くへの侵入につなげないという共通点があり、マッシモ名古屋もそれに該当している、ということである。
Conclusion
総括と希望:サスパサー成瀬とレシーバーシャビエル
本記事の分析では、マッシモ名古屋は「先行逃げ切り特化型」ではあるが、同様の問題を抱えているクラブは少なくない(2位のセレッソもそこに含まれる)こと、そしてその背後にはボール保持を前進に結び付ける効率の悪さが存在していること、がわかった。
他チームと比べてグランパスは極端に「ボールを持たされている」わけではないのだが、ボールを保持している単位時間あたりの前進度合いが少ない、ということである。
さて、ここまで述べてきたことだけではあまりに希望がない記事になってしまうので、最後に「何が希望となりうるか」ということについて述べて終わりたい。
先日のグラぽの記事で、フルゐ氏が「刺すパス」の重要性を指摘していた。
この記事では刺すパス=「相手が引いて守備ブロックを作っているときに、名古屋のディフェンダーやボランチから守備ブロック中央の密集地帯に入れるグラウンダーの鋭いパス」の出し手としての成瀬の重要性が力説されている。
成瀬への期待感の本質が「刺すパス」の出し手としての資質にあるというフルゐ氏の指摘は、我々に大きな気づきを与えてくれているといってよい。
ただし「刺すパス」を試合でよく見るためには、「刺すパス」を受けるのが得意な受け手も重要となるだろう。
個人的に「刺すパス」の受け手として注目しているのは、我らがNo.10、シャビエルである。
技術の高さに目が奪われがちだが、彼の本当の強みはパス&ムーブを高速で繰り返せることにこそあると思っている。
いわゆるハーフスペースで受ける動きに関しては、他の二列目の選手にくらべて、一日の長があるのではないだろうか。
そこで、サスパサー成瀬と、レシーバーシャビエルの効用をデータからみるために、以下の二つの「攻撃の効率性」の指標をみていきたい
- ゴール期待値(参考:Football LABによる定義)
- 枠内シュート到達率=枠内シュート/攻撃回数
ゴール期待値は、「どれだけ可能性の高いシュートを打てているか」に関しての指標であり、
枠内シュート到達率は、「どれだけ攻撃をシュートに結び付けられているか」に関しての指標である。
これを、以下の三つの場合にわけて比較する
- 成瀬、シャビエルとも46分以上の出場時間(5試合)
- 成瀬、シャビエルのどちらかが46分以上の出場時間(11試合)
- 成瀬、シャビエルともに45分以下の出場時間(3試合)
ケース数が少ないというデータ上の制約はある(統計的有意性云々なんて言えない))ものの、簡便な一次近似としてこの区分による比較を行う。
まず、ゴール期待値に関しては下図のとおりである。
次に、枠内シュート到達率に関しては下図の通りである。
これらの比較から、成瀬やシャビエルの出場が攻撃の効率性を高めていることが分かる。
成瀬/シャビエルの双方が45分以下の出場機会しか与えられない時に比べ、双方46分以上出場したときには一回の攻撃あたりの枠内シュート率は二倍以上になる。
むろん攻撃だけでなく(特にマッシモにとっては)守備もあってのサッカーなのでどの試合でも成瀬やシャビエルを起用すべき!というわけではないが、「先行逃げ切り特化型」からの脱却をはかるにあたっては、興味深いデータだといえるのではないだろうか。
今後への課題
- マッシモ名古屋の「プロビンチャ性」をデータ面から検討する
- マッシモ名古屋がアウェーで勝てない要因の分析
- 風間前体制との各指標/Styleの比較
一点目については、みぎ氏のブログの下記記事において問題提起がなされている。
migiright8.hatenablog.com
「そもそもマッシモは〝リスク〟の三文字が大嫌いだ。」
「彼の辞書にリスクの文字はないだろうし、あればきっと轟々と燃やし尽くすはずだ。何故危険な目にあってまでゴールを目指す?ノーリスクで勝利を目指せ。これがマッシモの哲学であり、自らリスクを冒すなど愚の誇張。リスクは冒すものではなく、狙うものだ」(みぎブログより)
また、他のサポーターの方からも以下のような指摘がみられる
やっぱりボスコはレッドスターでやってただけあって勝者のサッカーが上手かった。
— red orca (@forthegrampus8) 2020年10月2日
フィッカ将は弱点を見る能力は自チームに対しても相手チームに対しても上手いし、相手のストロングポイントを消す能力も高いけど、自分のストロングポイントを活かしきれないんだよな
マッシモさんはどうしても持たざるもの、プロヴィンチャタイプだと思うんですよね
— こ~すけ (@geboksan) 2020年10月2日
で、名古屋グランパスがタイトルを取れた、ヴェンゲルとピクシー(ボスコ)の共通点って
その時欧州最先端の強者のサッカーが出来て、その為の選手も揃える事が出来た
グランパスらしさってそこを追求すべきかもなと。 https://t.co/WVKOE4Hhmt
要するに、骨の髄まで"プロビンチャ根性"的なものが染み込んでいるのが、マッシモさんの本質だといっていい。
紐解いてくとめちゃくちゃイタリア人だなと思うしプロビンチャ(地方クラブ)を主戦場としてた監督さんだなあって。
— みぎ (@migiright8) 2020年9月19日
この点に関し、主体的にアクションを起こすクラブを(それなりに)カモりながらも、逆にアクションを促されると右往左往してしまう今のマッシモ名古屋の特性をデータ面からとらえたい。
2点目に関しては、「たまたま」という可能性もありえる(というかそう解釈したほうが自然である)が、
イタリアのサッカー文化や思考法が染みついているマッシモが意識的/無意識的に、Home or Awayで戦い方を変えている可能性はゼロではないので、一応データをみてみたい。
風間さんとの比較に関しては、単に興味というか好奇心です。
cero / Summer Soul【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
Enjoy!