論理の流刑地

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【データ検証】2021夏、名古屋の守備に何が起きているのか(前編)

今は見守るしかできない最高のキャプテンに、責任や焦りを感じさせないクラブでありたい。

はじめに

名古屋の「堅守」がいま、揺らいでいる。

無失点記録がどこまで伸びるか、という関心が高まるほどに堅くゴール前に鍵をかけていたシーズン序盤がウソのように、守備ブロックのいたる所にほころびができている。
いわゆるディアゴナーレを完遂できなくなった結果できてしまう「門」から、簡単に裏へのパスやクサビを入れられてしまう。

その結果、CBが釣り出されることも多くなり、昨年リーグ最少であった被シュートの枠内率の低さを支えた、「ゴール裏で最後まで粘り切る」ことを可能にするための時間や人数を確保できなくなってしまっている。

今年のはじめに、

  • 風間期→マッシモ期の守備の変化
  • リーグの他クラブと比較したときの守備の特徴

というふたつの観点からデータ分析を行い、守備に関しての昨季のレビュー記事をグラぽで執筆させていただいた(以下URL参照)。
grapo.net

本記事では、いわば中間点検的に、

  • この記事で指摘したマッシモ名古屋の守備の強みのうち、何が失われているのか
  • 同じく記事で指摘した昨季のマッシモ名古屋の守備の課題は、改善しているのか

という二点を、まずデータから読み解いていく。

その次にポジション別・個人別のスタッツを活用しつつ、チームにおきているデータ上の変化をより深く解釈していく。
最後に、私見も交えた今後への課題・展望を述べる。

そういう記事である。

使用データ

Football LABおよびSofaScoreから、2020/2021年の各指標データを利用している。
※データ取得の方法に関しては過去記事を参照(記事1, 記事2

守備に関する指標としては、上述のシーズンレビューでも用いた、以下の数値(の1試合あたり平均値)を確認していく。

  • 失点
  • 被ゴール期待値
  • 被シュート数
  • 被枠内シュートの失点率
  • 被シュート到達率
  • ペナルティエリア被侵入率
  • タックル数
  • タックル成功率
  • インターセプト
  • ファウル数
  • パス阻止率
  • クロス阻止率
  • ドリブル阻止率
  • KAGI(LABの独自指標、定義はココ

また、2021年に関しては丸山が受傷した清水戦(2021/5/15)の前後で各指標の比較を行う。すなわち、

  • 丸山受傷前(5/12の鹿島戦以前の16試合)
  • 丸山受傷後(5/22の徳島戦~8/12横浜FM戦、の6試合)

分析した時期の都合上、最新のマリノス戦(8/12)が含まれていないことや丸山受傷後の試合数はそもそもサンプル数が少ないことに留意されたい。

分析:各指標の変化の確認

守備に関する各指標について、去年/今年(丸山離脱前)/今年(丸山離脱後)で比較を行ったのが、以下の表となる。
丸山離脱後に数値が悪い方向に変化した指標を赤で、改善した指標は緑で強調している。

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守備の主要指標の変化(2020-2021, 名古屋グランパス

さて、読み取れるのは以下のようなことである。

  • 各指標が全体的に悪化しているわけではなく、被シュート到達率やペナルティエリアへの被侵入率は丸山離脱後も低い水準に抑えられている。
  • 一番目を引くマイナスの変化は、被枠内シュートがゴールに結びついてしまう率が丸山離脱後、大きく高まってしまっていることである。離脱後のケース数が少ないため、もう少し今後数値が落ち着く可能性があるが、それでも枠内シュートを打たれたときの失点率が20%ポイント以上増加しているのは見逃せない。
  • タックル数が少なくなっている。タックル成功率自体は変わらないので、確実に奪えるような機会を選んで限定しているのではなく、単に奪取の試行回数が減ってしまっている
  • 上記のシーズンレビューで2021年の課題だと指摘したインターセプト数の少なさは、丸山離脱前までは2020年より明確に多く成功していたが、離脱後は2020年と同様のペースに落ちてしまっている
  • DFの地空のデュエル勝率については、興味深い反転現象が起きている。2020を含め丸山離脱前は、空中のデュエル勝率が約5割&地上でのデュエル勝率が6割、というどちらかといえば地上の戦いに比較優位をもっていた。しかし丸山離脱後は空中戦勝率が大きく上昇(48.1%→61.3%)した代わりに地上戦勝率が低下(62.9%→50.7%)している。どちらかといえば空中戦を得手とするようになっている。

守備指標の変化に関する解釈・仮説

これらの見出された変化については、
① 丸山→木本というキャスティングの変化によるもの
ACLや過密日程による疲労
③ 他クラブによる対策の精度向上

などが主な要因の候補として頭に浮かんでくる。

さらなるデータ分析に進む(次回記事)まえに、各変化点とその要因についての個人的な見立てを記す。

まず、空中戦勝率の上昇については、獲得当時のグラぽの記事(柿谷曜一朗と木本恭生はどんな選手なのか | グラぽ)でも指摘されているように、木本は空中戦の強さを特長とする選手なので①が大きく作用していると思われる。
地上戦勝率の低下は、2020年のJリーグでぶっちぎりのトップで地上戦が強いDFだった丸山(下表参照)の不在がまず大きく、そこに疲労や他チームの対策など、複合的な要因が作用していると思われる(①②③)。

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地上戦のデュエルマスターだった丸山(各チームのエースを相手にしてるのに4回に3回勝つ漢) ※データ出所:Sofascore

インターセプト数に関しては、今年から(というか昨年の終盤くらいから)状況によってはかなりCHを前に出してハメに行くようになっていたが、体力的にフレッシュで周りが呼応できたこともあり、それがうまくハマっていたのが開幕当初であったといえる。
しかし疲労(②)や他クラブによる名古屋の守備組織の攻略(③)があって、うまく一人が飛び出しても周りが反応できなくなったり、むしろその穴を的確に突かれる場面が目立つようになり、ボールが引っ掛けられなくなった、というのが現状ではないだろうか。

最後に、枠内シュートの失点率の大幅上昇については、ランゲラック自体のパフォーマンスが顕著に短期間で落ちるということは考えづらい(実際見ていても絶体絶命のピンチを多く救っている)。
では、何が問題かというと、シュートを枠に打たれるにしても、

  1. 多くの人数で
  2. 一歩でも身体を寄せて
  3. 最後の瞬間まで

プレッシャーをかけるという、ゴール前の最後の粘りや一度抜かれてからの戻りのスピードが疲労等で落ちているのではないか、というのが個人的な仮説である。

上のシーズンレビューでは

「風間前監督時に比べて、2020年の名古屋の守備は何が一体改善されたのか?」というメインの問いへの答えをひとことでまとめると、「侵入を許した「後」の自ゴール前での最終局面での対応が改善した」
(中略)
シュートを打たれること自体は回避できなくても、より「質が低い」シュートを打たせることができていたのが2020年の名古屋だといえます。

といったまとめ方をしたのだけれど、その強みが失われているのが今であるように思う。

この点に関して、最近のグラぽのマリノス戦レビューではマテウスの攻め残りへの指摘が指摘されていたが、

疲労の色が濃く、ボールを奪っても即奪回し返されてしまう展開が続くなかで、マテウスだけでなく全体的にMFやFWが戻り切れなくなっているのではないだろうか。

みぎさんが昨年の時点で既に以下のような指摘をしていたが、こういった名古屋の守備の構造的問題点があまりにも痛い形で露顕しているのが今、という見方ができる。

みぎさんの指摘に自分なりの解釈も加えて、今の状況にいたる図式についての個人的な見解を述べると、

  1. もともとそこまでライン設定は高くなく、前線と連動して奪いにいくときは中盤の選手が長距離を一気に走る必要があるという構造的問題があった
  2. 今年は(昨年比で)シーズン開幕当初はかなり前から行くことを意識づけていており、まだ選手がフレッシュかつ丸山が健在であった序盤はうまくいっていたインターセプト数の上昇に反映)。
  3. 連戦の疲労で全体の運動量が低下していることに加え、裏やサイドへのカバー範囲の広さを持つ丸山が離脱した。そのため、下がらざるをえないDFラインと戻り切れないFW/MFの間隙が目立つようになり、守備の堅さが目立つようになった(おそらくシーズン最序盤の「前から奪う」の意識もここでは裏目に作用している)。
  4. (その裏返しの現象として、横浜FC戦などではラインをやや無理めにでも高めに設定しようして、裏を突かれるようになってきている)

という形になる。

「はじめに」での問題提起に引き付けていうと、DFラインを高めに設定はしないまま去年の課題=インターセプト数の少なさに取り組もうとしたが、主力の離脱と疲労が重なった今は、前から奪いに行けなくなっただけでなく守備組織から従来の強みであった「最後尾の粘り」までにも悪影響を及ぼしてしまっている、というのが私の暫定的な理解である。

これらの点について、位置情報等のデータは利用不可*1なので、シュートを打たれた瞬間の打ち手への距離や近くにいる人数を測って直接的に検証することはできないが、次の記事では個人別/ポジション別のスタッツを活用していくつか傍証的な分析を試みていきたい。

次回にむけて

本記事では、ひとまず丸山離脱のタイミングで守備に関する各数値がどのように変化したのかを把捉した。
次の記事では、

  • インターセプト数やタックル数の低下の背後にある原因
  • DF以外の守備指標の変化

などについてポジション別/個人別のスタッツを読み解いていくことで、今名古屋の守備に起きている現象が何なのか、ありうる打ち手は何か、についてさらなる理解を深めたい。
※まぁ、そんなこと言っている間にチームがまた復調してくれるのを何より願っていたりするのですが…


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Enjoy!

*1:マッシモの守備組織において肝要なのは「CBがゴール前からなるべく釣り出されないこと」だと個人的には思っているので、本当はそれを直接測れたらいいんですけど