論理の流刑地

地獄の底を、爆笑しながら闊歩する

【簡単な備忘】『分解するイギリス:民主主義モデルの漂流』(近藤康史, 2017)

図書館で借りて、最近移動時間や休憩時間に読んでいた本。
(新着図書のところに置いてあったから今年の本かと思いきや3年前の本だった)
政治のことは国内外含めわからないし、イギリス社会にも全然詳しくないが、単純に勉強になった。

まったくまとまった文章ではないが、気になったフレーズだけ箇条書きで残しておく

箇条書き(キーワード:頁)

EU離脱「後」の保守党・労働党の内部分裂:19
・「決められる政治」のモデルとしての英国:25
・英国では、(閣僚以外の)議員が官僚:26
・日本政治の「ウェストミンスター化」:27
・二大政党合わせての得票率の低下&政権交代の低頻度化(80's以降2回だけ):28
・議会制民主主義の制度的パーツ:28
・多数決型民主主義 vs コンセンサス型民主主義(byアレント・レイプハルト):29
・すべてのパーツが「多数決型」であったかつてのイギリス型民主主義
・"吸収できない「民意」が増えていく"(=民意の漂流):32
・議会主権("憲法のような、議会を超える権威は存在しない。これが、イギリスにおける「議会主権」である"):40-42
・執政優位の議会制度:43-44
→「もともと議会による執政(国王)への同意の調達という原理を起源として持つため、その執政が国王から内閣へと変化した現代においても、議会は執政権力の正当化の手段という性格を色濃く残している」
庶民院(下院)の優越→貴族院の「一時停止的な拒否権」への限定:44-45
・「日本において参議院がもつ拒否権は意外と強い。比較政治学者のアレント・レイプハルトは、日本を「中程度に強い二院制」に位置づけている」:46
小選挙区制における「三乗比の法則」(第一位政党の過大評価):55
デュヴェルジェの法則:54-56
→「デュヴェルジェは、このようにして「より大きな悪を防ぐために、二つの対抗者のうちのより小さな悪に、自分たちの投票を委譲する自然の傾向」が生じてくると述べた。これが第二のメカニズムである「心理学的要因」」(p.56)
・イギリス国民の小選挙区制度・単独政権への支持(=連立政権を忌避):58
・政権の安定性のもうひとつの条件:政党内部の一体性:60
→「小選挙区制に基づく二大政党制の場合には、政党の一体性が低くなる場合がある。なぜなら、さまざまな違いを持った多数の議員が二つの政党へと糾合されているため、各政党のなかに多くの潮流を含むことになるからである」(p.60)
・政党内の一体感の二大要因「規律」と「イデオロギー的凝集性」:62
・政党の同質性を生み出すものとしての「支持者の同質性」:64
・「執政優位」が必ずしも首相の強力なリーダーシップに結びつくわけじゃない:71-72
・対立政治論 vs 合意政治論:88-92
・合意政治論の二つの根拠:91-92
→①統治政党としての責任を見据えることによる現実的な政策への収斂(by ロバート・マッケンジー
→②中位投票者の理論による説明
・合意(60'sまで)→敵対(70~80年代)→合意(90年代以降)というトレンド:93-94
ベヴァリッジ勧告における排除すべき「5つの巨人」(欠乏、疾病、無知、不潔、無為):95
・ウィルソン労働党政権(1964~)における"「統治政党」としての労働党と、労働者の利益を実現する「階級政党」としての労働党との間のジレンマが噴出":100
・合意政治の破壊の旗手としてのマーガレット・サッチャー:102-105
労働党の左派純化による転落:109-110
・ブレア労働党第三の道」における保守党との政策の相対的接近(「新しい合意」説):114-116
→「さまざまな違いや対抗軸は形成されているとはいえ、サッチャー政権が作り出した基礎に大枠では立ったうえで、貧困などそれが生み出した問題点を修正していくという性格を、ブレア労働党が持ったことも確かである」
有権者の中道化:121-123
→「蒲島・竹中は、このイデオロギー分布の変化を国際比較し、イギリスは有権者の中道化が最も進展した国であると結論づけている」(p.123)
・階級投票の瓦解と「ヴェイランス・モデル」の勃興:122-125
・「新しい合意」の副作用:128
→「二大政党間での合意政治による副作用によって、イギリス民主主義の核であった議会への民意の反映という点では、排除されてしまっている人々の存在が大きくなってきているのである。特にそれらは、経済や福祉国家を中心とする二大政党間での「合意」に収まらない、新たな対立の存在に伴って大きくなりつつある
・党内対立の鎮静化手段としての、国民投票住民投票:203-204
→「目論見通りの結果をもってその争点に決着をつけることに成功すれば、政党リーダーは政党内対立を鎮静化させて政党の一体性を確保することができる。それに伴い、政党のリーダーの優位性、また政権政党の場合には首相をはじめとする執政の優位性を維持することも可能となる」(p.204)
小選挙区制への国民の根強い支持(選挙制度に関する住民投票in 2011):204-208
国民投票における独立否決でも党勢を伸ばしたSNP:209-211
←「この住民投票において、SNP対イギリス主要政党という対立構図が形成され、これまでスコットランドで一定の支持を受けてきた労働党自由民主党は、スコットランドへの対抗勢力としての括りに入ってしまった」(p.211)
EU離脱・残留をめぐる保守党内の分裂:213
EU離脱・残留をめぐる労働党の曖昧な立場:214
→「労働党が「残留」の立場を取っていることを知らない人は、労働党支持者の中にも多かった」(p.214)
・政党横断的な対立がある論点に関しての「民意の漏れ」:216-217
・左派ポピュリスト的潮流の既存政党への反応としてのコービン労働党首誕生:222-223
・「主に得票レベルでは多党化が進み、二大政党制は崩れつつある。ただそれ以上に問題となるのは、選挙制度小選挙区制のままであるため、得票率での多党化を議席数においては二大政党に有利な形へと変換する効果は依然として働いていることである」:227
・他の制度的パーツにも波及する要因としての「分権化」:228
・ブレア以後の有権者からの直接敵支持依拠型リーダーシップがもたらした「議会主権」のゆらぎ:230-232
・制度的パーツの異なる方向性への変化とその結果としての「民主主義の漂流」:233-237

簡単な感想

ある機能に対して、下位制度(パーツ)の結合としての「制度」が機能しているように思えるときって、
制度パーツ間の補完がうまく順機能的にかみあっているんだけど、外部環境の変化への対応のため改革の必要性が出てきたときに、
あるパーツは従来の方向性を強化するようにして、別のパーツは従来とは逆の方向への転換を図ってしまいどんどんうまくいかなくなる、というのは
政治だけでなく労働市場や教育、スポーツなど色々な領域で起きていることではないだろうか。

二つの対立的な志向性を表わす特徴群が混在する形で、「制度のセット」をつくってしまうと、それはうまくいくわけがないという指摘は昔よんだJ・ジェイコブスの「市場の倫理、統治の倫理」を思い起こした*1

あと、たぶんこの本の本筋からは外れるんだろうけど、EU離脱or残留の国民投票前の各陣営のキャンペーンが、
残留側はファクトベースの説得を試みたけど、離脱側は(いわゆるpost-truth的な)誇張やデマを活用したものであって、
後者が勝ってしまったっていうのは、日本の現況に鑑みても色々考えさせられるところではあった。


BLUE ENCOUNT 『ハミングバード』Music Video【TVアニメ『あひるの空』オープニングテーマ】

Enjoy!

*1:こうやって再読したくなる本が増えていくから時間はいくらあっても足りない