【追加データ検証】マッシモ名古屋(とロティーナセレッソ)が前半先行されると追いつけないのはなぜか
マッシモ名古屋をデータで追うシリーズpart2.
小中先生(@konakalab)が新たな武器を授けてくれたので。
◆Outline
- 問題提起:あれから一か月経った現状と課題
- セレッソと名古屋の共通点:一部選手への起用の集中化
- アプローチ:HTがビハインドである場合の勝敗関数の推定
- 検証結果:後半追いつくためにチームに必要な力
- 名古屋(とセレッソ)に関する追加的考察
- 結論:じゃあ名古屋はどうすれば?
問題提起:あれから一か月経った現状と課題
以前、グラぽの記事に触発されてグランパスの「先行逃げ切り特化型」仮説の検証記事を書いた
ronri-rukeichi.hatenablog.com
その当時(20/10/2時点)、我らが名古屋グランパスはセレッソ、鳥栖、湘南、横浜FC、清水とならんで
「HTでビハインドだと必ず勝ち点0になってしまうクラブ」に名を連ねていた。
そこから、1か月が過ぎた今、状況はどうなっているだろうか。
10/31時点のデータから、前回記事と同様にX軸:HT突入時にビハインドであった試合数、Y軸:HTでビハインドのときの平均獲得勝ち点をプロットしてみる
あれから試合は重ねたものの、相変わらず名古屋は先制されて前半を折り返すと必ず追いつけずに終わってしまうクラブであり続けている*1。
また、同じく上位にいるロティーナセレッソも一か月前と同じく「上位なのに先行逃げきられ組」となっている。
前回記事では、なぜ逃げきられてしまうのか?という要因についてはあまりデータから明瞭な答えを見つけられなかった。
そこで本記事においては、マッシモ名古屋とロティーナセレッソが(リーグ上位であるにもかかわらず)追いつけない理由をデータから見つける。
ということで、前回記事の追加検証的な位置づけとなります。
セレッソと名古屋の共通点:一部選手への起用の集中化
グラぽで名城大の小中先生がジニ係数をアレンジした「出場時間集中係数」なる指標を提案なさっていた。
0~1の値をとり、0に近いほど所属選手が平等に試合に出ており、逆に1に近いほど一部の選手のみが試合出場時間を独占していることを表わす指標だ。
grapo.net
ronri-rukeichi.hatenablog.com
2020/10/31時点のデータでこの指標を計算してみると、
名古屋:0.899(リーグ1位) , セレッソ:0.890(リーグ2位)となっている。
(ちなみにリーグで一番出場時間が分散しているマリノスは0.598。リーグ平均は0.733)
つまり、上位なのに前半先行されると追いつけない2クラブ(名古屋、セレッソ)は、リーグでもっとも一部選手に起用が固定化している2クラブでもあったのだ。
アプローチ:HTがビハインドである場合の勝敗関数の推定
※ここは統計的な手続きに興味がないかたは読み飛ばして構わない箇所です...
「データから追いつけない理由を見つける」とは言ったものの、それはどのように特定すればよいのか。
ここでは以下の順序ロジットモデル*2を利用して、HT時ビハインドのときの最終的な結果(=勝分負)に統計的に有意に作用する要因を見つけていく。
ここで、はクラブiが第j節に勝つ確率を表わす。
さらに、はクラブごとに固定される要因群、はクラブ×試合の組み合わせによって決定される要因群である。
たとえば、出場時間集中係数は前者であり、ポゼッション率(の過去5試合平均)は後者となる。
ここでが要因候補となる各チームの特徴や、試合情報となり、はその効果を表わす。
第1,2式の左辺はそれぞれ、「勝てる確率のオッズ(の対数)」「勝ちか引き分けれる確率のオッズ(の対数)」を示す。
まぁ簡単にいうと、負けよりも引き分け、引き分けよりも勝ちで終わるために必要な要因を見つけるためにこの分析手法を使う。
要因候補として使うのは、以下の変数である
※[F]はFootball LAB依拠のデータ、[S]はSofascore.com依拠のデータであることを示す。
データ取得の方法に関しては過去記事を参照(記事1, 記事2)
- 出場時間係数(Jリーグ公式から独自作成)
- 開催地(Home or Away)[F]
- ボール支配率[F]
- チャンス構築率*3[F]
- シュート枠内率[F]
- ドリブル成功率[F]
- ドリブル阻止率[F]
- 交代選手の合計出場時間[F]
- FWの空中戦勝率[S]
- インターセプト数[S]
を利用する。
集中係数(各クラブごとに決定される)と開催地以外の指標に関しては、その試合自体の数値ではなく、過去5試合分の平均値をつかっている*4。
それは原因と結果の時間的前後関係を明瞭にするためであって、たとえば「リードされたから引かれてボール支配率が高くなった」みたいな原因と結果の逆転現象を回避するためである。
(以下技術的補足なので、読み飛ばしてもらってかまわないです)
検証結果:後半追いつくためにチームに必要な力
勝敗関数の推定結果は以下の通りである。
読み取れるのは以下のことである。
- 前半ビハインドの状態から追いつくうえで、出場選手が固定化されることは統計的に有意な負の作用をもっている。出場時間集中係数(小中指数)が高いほど、最終的に引き分けたり勝ったりする確率が低くなる。
- 守備に関する指標であるインターセプト数とドリブル阻止率が、後半で追いつき、逆転するための重要な要因として見出されている。
- チャンス構築率(=シュート到達回数/総攻撃回数)も(有意水準はさがるものの)正の有意な影響をあたえている。
- 予想に反して、FWの空中戦勝率は統計的に有意な影響を与えていない
先にも触れた通り、選手起用の固定化・集中化は前半先行されたの状態から追いつく確率を低める。名古屋・セレッソにはこの点が明確に該当している。
また、意外にも追いつくうえで重要な指標として見出されているのはインターセプトやドリブル阻止などの守備に関する指標であった。
しかし、名古屋は「堅守」とされ実際に失点数の少なさでもリーグ2位に位置するチームであり、守備には強みをもつはずである。
次は、この謎を解いていく。
名古屋(とセレッソ)に関する追加的考察
さて、リーグ全体のデータから後半追いつけるかどうかに関わる要因を見出せたところで、マッシモ名古屋の具体的な数値をみていき、現状の問題点を探る。
ビハインドでHTに突入した状況に限定した勝敗関数の推定において統計的有意と見出された四つの変数(インターセプト数、ドリブル阻止数、チャンス構築率、出場時間集中係数)だけ抜き出して、名古屋とセレッソの数値とリーグ内順位を並べたのが次の表である。
ドリブル阻止率は高いものの、名古屋はチャンス構築率の低さ(リーグワースト5位)、インターセプト数の低さ(ワースト3位)、出場機会の固定化(ワースト1位)と、それ以外の「追いつけないチーム」の特徴を全て備えてしまっている。
セレッソはチャンス構築率はリーグ中位だが、その代わりドリブル阻止率が低くなっており、インターセプト数はリーグワーストである。
①堅守のイメージに反してインターセプト数は少ないこと、②選手起用の固定化が進んでいること、が名古屋とセレッソに共通する「先行されたら追いつけない」要因となっている。
結論:じゃあ名古屋はどうすれば?
以上のデータ分析から、選手の固定化とインターセプト数の少なさが名古屋とセレッソという「上位なのに前半先行されると追いつけない」組の共通の問題点として浮き上がった。
これらの点を改善するための指針に関して、私見を述べていく。
(ここまでは「データから導かれること」でしたがここからは個人的な解釈が含まれるので、そこは一応ご寛恕いただければ)
ゴールに鍵をかける守備から網にかけるための守備へ
前提として、今シーズンの名古屋の守備は本当によくやっている。
昨季までを考えれば、12/27試合がクリーンシートというのは考えられないほどの数字で、当事者である選手も手応えを感じられているだろう。
👊🏼👊🏼 12th clean sheet of the season! https://t.co/YNxB9vhTnl
— Mitch Langerak (@MitchLangerak25) 2020年11月3日
しかし一方では、先日のゆってぃ氏の川崎戦後のレビューで、名古屋の守備に関して以下のような懸念が表明されていた。
ただ、守備に定評があると言われているが、今回のセットプレイの整理されてなさや、シーズン通して最終的に「気合」で守る守備を見ていると、もう少し理詰めで守備出来ないものかと思ってみたり…。
理詰めでの守備ができていない=再現性があるような形での「ボールの獲り所」の組織的なセッティングができていない、ということは上述のインターセプト数の少なさにも表れているように思える。
基本的にマッシモの守り方は4-4ブロックの形成とその修復・再構築を最重要視するような形に見える。
しかし場合によっては、どちらかのSHが飛び出して夢生・阿部(or シャビエル)と連動するような形でハメこむ守備も戦術的バリエーションに加えることで、先行されたときの「取り返すための守備」も向上させることが必要なのではないだろうか。
選手の固定化傾向の改善
今回の分析で名古屋の(セレッソとも共通する)問題点として、一部選手への出場機会の固定化・集中化が見出された。
確かに名古屋のサポーターからすれば、青木、児玉、渡邉、石田、秋山など期待している若手~20代半ばの選手をマッシモがほぼ起用していないことは不満とは言わないまでもモヤモヤする一因になっているのではないだろうか。
(あくまでも私見ですが)マッシモは攻守両面で「個人で完結できる」ことを重要視しているように思える。
「一人一殺」ができるかどうかが、大きな選考基準となっているように見えるのだ。
だから周りとのコンビネーションで崩したり守ったりする選手については、かなりプライオリティが低く設定されているように思う。
シミッチの能力をなかなか現状活かせていないのも、その「個が頑張る」ことを軸としたチーム作りと関わっていると感じる。
また、それは来期のレンタルバックが期待される杉森の受け皿を作るために必要なことでもある。
杉森考起が徳島のフットボールを理解しハーフスペースで受けて突撃してる姿はちょっと涙でるレベルなんだけど、悲しいのは今の名古屋の両翼はより個人での打開力が求められる(どこでどう受けるかより、受けてからの力量が問われる)ので、これ徳島の方が幸せなのでは...と思ってしまうことよ(´-ω-`)
— みぎ (@migiright8) 2020年10月12日
使える駒自体を急に増やすことはできないが、違うタイプの駒も生かせるような戦術的多様性を志向することは次のステップとして悪くない方策なのではないか。
最後に脱線:でもそれってマッシモだけのせいなの?
「選手の固定化はよくないよ、マッシモ」と言っておいて舌の根も乾かぬうちに反対のことも述べたい。
最近読んだ渡邉晋氏の『ポジショナルフットボール実践論』(名著です)において印象的だったのは、
トレーニングに使える時間は限られていて、どうしても「あちらを立てればこちらが立たず」のトレードオフが起こってしまうということが赤裸々に述べられていることであった。
攻撃のトレーニングばっかしていると守備面でのミスが増え、逆に守備の建て直しを図ると攻撃面で仕込んだことが忘却されてしまう、という監督のリアルがそこには克明に描かれていた。
コロナ禍による変則日程においてトレーニングにおいて「疲労回復」「前節の問題点の修正」「相手の分析・対策の落とし込み」などに時間をつかうと、「練兵」に割ける時間がなくなってしまう、というのがマッシモの直面する現状なのではないだろうか。
それでも未来に投資すべきだ、とするならばマッシモの評価をする側である強化部が「目先の勝ち点を多少落としてもよいから選手の育成にリソースを割いてくれてよい」と背中を押す必要がある。
さらにいえば、そもそも(質を議論する以前に)FWの枚数自体が足りていない、というのは直近のラグ氏のレビューでも指摘されている通りである。
grapo.net
(セレッソに関しても、あまり勝ち星に恵まれなかった少し前の時期に、ロティーナを批判するよりもFWの駒不足を嘆いている声を多く見た。)
だから、選手の固定化傾向を解きほぐすにはマッシモだけじゃなくてマッシモを評価する側である強化部の理解と胆力も不可欠である。
まぁ色々述べたけど、最後に言いたいのは「アーリアをピッチ上で早く見たすぎる」ということでした。
Enjoy!!