論理の流刑地

地獄の底を、爆笑しながら闊歩する

【備忘】「人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか」

移動時間でナナメ読みしたので、めちゃ簡単なメモ。
個人的に面白いと思った章の、印象に残った箇所だけ抜き書きしとく。

人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか

人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか

  • 発売日: 2017/04/14
  • メディア: 単行本

てか経済学に関しては門外漢すぎて毎回初歩的なとこで躓くので、今更若い頃に買ってた『マクロ経済学 第二版』(浅子ら著)をはじめから読み始めたよね....*1

総評

序章において、編者をつとめた玄田氏が、この本の成り立ちについて述べている(pp.xi-xii)。

執筆者のみなさんにご寄稿の依頼をする際、事前に内容の明確な調整や棲み分けはあえて行いませんでした
むしろ、人手不足という環境にもかかわらず賃金の停滞が続く構造的理由に関する見解を、それぞれの専門的な視点から思う存分にご披露いただくことをお願いしました。


その結果として、本書全体を読んでいただくと、多くの論考のなかに、図らずも共通した内容が発見されると思います。
それは、人手不足にもかかわらず賃金が上がらないことへの、個別の専門知を超えた有力な見解ということでもあります

(個人プレーに走るきらいのある経済学者集団*2を取りまとめられなかっただけの言い訳にも思えるが)確かに各章には内容がカブっている部分もかなりあり、特に

  • マクロ的に『賃金があがらない』ように見えているのは、いわゆる”構成効果”(=賃金が上がっている属性集団の比率が下がり、賃金が下落・停滞しているor平均賃金が低い集団の比率が大きくなっている)が大きい
  • 構成効果の中身としては、非正規雇用層/(再雇用対象の)高齢者層、などの増大の影響が大きい。
  • 逆に勤続している正社員層に関しては賃金は上昇トレンドで安定してはいる
  • (年齢別)人口ピラミッドの影響も大きく、特に団塊団塊ジュニア層の全体平均へのインパクトは無視できない。

といった内容に関しては章を超えて幾度となく出てくる。だからこれが玄田氏のいうところの「有力な見解」なんだろう。
でもこの「有力な見解」って、まぁそうだよな....って感じのが多くて正直言ってもうちょっと頑張ってよ経済学!!って気分になった。
(各章よんだけど、知的な興奮を感じたのは正直最後の16章くらいだった)

あなたたちこの国のBest & Brightestな頭脳なハズなんだからもうちょっとエレガントな説明をだな.....って思っちゃうのは門外漢な読者の贅沢なんですかね。
でも各章を分担した学者の方からすれば、「この分量(だいたい16~20頁くらい)で書けることには限りがあるからね!?」って抗弁したくなるかもだけど。

6章(梅崎修)『人材育成力の低下による「分厚い中間層」の崩壊』pp.85-100

HRM(人材資源管理)論に関して様々な面から面白い実証研究を発表なさっている、

以下の二点が印象深かった。

  • 近年の日本の人事制度改革は、米国にならい「資本市場と労働市場の原理を組織内に取り入れる」改革として捉えられるが、一方で製品・サービス市場の原理を組織内に成り立たせるような従来の日本の好業績労働組織は長期雇用による企業特殊技能の育成を前提としていたので、その両立は「アクセルとブレーキを同時に踏むような自己矛盾」を生み出した(pp.90-91)
  • 非正規化が正社員に与える負の影響として、企業内OJTが円滑に行われないことが挙げられる。

とくに二点目は、単に”非正規化が進むと構成効果で平均賃金が下がる”みたいなありがちな話でなく、非正規労働力による代替がOJTの経験経路までを阻害する、という点に着目していて面白かった。以下引用(pp.93-94)

(引用注:安田宏樹(2008)「非正社員の活用が企業内訓練に与える影響」論文について)
派遣社員や業務委託などの非正規化によって正社員は、難易度の低い定型業務や独立性と標準化の高い業務を担当しなくなる
その一方で、非正規化が進んだ職場の管理業務という難易度の高い新しい職務が任された。
あわせて、非正規化の進んだ後に入社してきた若手正社員には、「周辺」の「易しい」仕事から徐々に「中心」の「難しい」仕事に挑戦するという企業内OJTの経験経路がなくなっていたのである

短期的な人件費の削減が長期的な正社員の育成とトレードオフになっている、という点を描いていてなるほどと感じた。

あと、引用されているYokoyama et al.(2016)に興味がわいた。
過去25年の日本の賃金分布の変化と要因について分析されていて、面白そうである。

7章(川口大司・原ひろみ)『人手不足と賃金停滞の併存は経済理論で説明できる』pp.101-119

手堅い実証のイメージがある川口・原両先生の共著論文...であるが、分析結果自体は正直あまり見るものがなく、
ファクトとして印象に残ったのは、リーマンショック後に訓練(off-JT)受講者割合が正規/非正規を問わずにガクっと(10%ポイントほど)下がり、一人あたり訓練支出も半減された、という日本企業の能力開発に関する悲しい変化(pp.115-117)くらい。

それよりも、もともとは開発経済学の理論であるらしい「ルイスの転換点」の話が面白かった(p.112-113)。
論理は以下の通りである。

  1. 発展途上国の)経済には都市部の工業セクターと農村部の農業セクターの二つが存在する
  2. 農村には余剰労働力が存在する、彼らの賃金上昇に対する労働供給の弾力性はとても高い
  3. わずかな賃金上昇で多くの農村→都市の労働移動が起こるので『工業化が十分に進展して、農村の余剰労働力を吸いつくさない限り、賃金上昇が起こらない』(p.113)


このルイスの転換点の話における「農村の余剰労働力」に当たる層が日本では、女性や高齢者であり、それは性別役割分業や定年退職制度という制度の存在と深く関わっているという話であった。
確かに面白い。

10章(塩路悦朗)『国際競争がサービス業の賃金を抑えたのか』pp.151-164

実証手続きは若干怪しい感じがするというか厳密には仮説の傍証しかできていない気がする論文だけど、アイディアは興味深かった。
彼の仮説は以下のようなパーツによってなっている。

  1. 国際競争に晒された輸出産業(ここでは製造業が想定されている)は、競争により賃金の下方圧力を受ける。また、負のショックを受けたときには雇用調整をするので、その結果その産業の労働者(例:組立工)は職を失うことになる。
  2. 対人サービス(ここでは介護サービス業などが想定されている)の従事者(例:ホームヘルパー労働市場と組立工の労働市場二つの市場の間が往来可能だと仮定すると、離職した組立工はホームヘルパーの市場に参入することになり、たとえ対人サービスの市場に対して需要増があったとしても賃金上昇の効果は限定的になる。

この仮説の現実的な妥当性を検証するうえで、
【仮定①】二部門(製造業/対人サービス業)の労働の代替性がある
【仮定②】労働者が対人サービス部門に流入してきたときに賃金が押し下げられるという賃金の伸縮性がある

の二つの仮定をデータから検証しているのだが、それがリーマンショック後の各産業の求職状況や賃金の分析(「イベント分析」と称されている)によってなされているのが、少しどうなんだろうかと思った。
たとえば仮定①は、リーマンショック後、輸出産業(機械組み立てなど)で有効求人が落ち込み、対人サービス(「社会福祉専門の職業」など)への求職が増えたことから、支持されるとされているが、本当に前者から後者からの労働移動があったかはこのデータだけからはわからず傍証でしかないのではなかろうか。
仮定②に関しては、対人サービスの職種でリーマンショック後に賃金が下落しなかったことから棄却、とされているがそれは本来(=異業種からの流入がなかったとき)の水準との比較で判断なされるべきであって、賃金が下落したかどうか、という単純な変化の有無で判断できないのではなかろうか。

....という実証面の不備があるものの、「一部産業に対する国際競争の影響は、他産業における雇用にも波及する可能性がある」というベースのアイディアは面白く感じた。

11章(太田聰一)『賃金が上がらないのは複合的な要因による』pp.165-181

大胆に単純化されたモデルによる分析でバッサリ経済現象を斬ることでおなじみの、人呼んで*3「辻斬りの聰一」こと太田先生の章。
ずばりタイトルからして「賃金が上がらないのは複合的な要因による」と来ました。
”そりゃそうだろ!!”って全読者が心の中でツッコミを入れたのではないかと拝察しますが、それを許さない貫禄があります。

ということで、彼の分析・主張の要点を整理。

  • 団塊世代をはじめとする高齢者層の非正規雇用への参入が賃金上昇に対して抑制的な効果をもった(pp.166-168)
  • (名目)賃金上昇率の時系列変動(1982~2015が対象*4)は物価上昇率(回帰係数: 0.44)、完全失業率(-0.79)、平均勤続年数の伸び(0.024)、労働生産性上昇率(0.36)による回帰で92%が説明できる(pp.170-171)
  • 負の世代効果(=「給与水準が多世代に比べて相対的に低くなった世代は、それ以後も相対的劣位が続く」効果)が直撃した「団塊ジュニア」世代(71~74年生)は不安定なキャリアを積んできたため能力開発の機会に乏しく、その結果前の世代と比べて大きく賃金水準が下落してしまっているが、その層は人口的なボリュームも大きいことから平均賃金の足を引っ張っている(pp.172-176)

まぁ割と知られている事実ではありますが、「前の世代と同じ年齢に差し掛かった時に同じ給与水準に届かない」とことを示した176頁の図はインパクトがある。
停滞どころから右肩下がりの労働社会に突入している、と。

16章(上野有子・神林龍)『賃金は本当に上がっていないのか:疑似パネルによる検証』pp.267-284

この章が個人的にはダントツで面白かった。統計数字のカラクリを解くって感じで。

話の要点は簡単である。
マクロで観察される平均賃金水準の変化とは、継続勤続者の賃金水準の平均的変化と、引退者と新規参入者の平均的賃金水準の差から合成される指標である。
したがって、平均賃金が伸び悩んでいるように見えるのは、後者の効果が前者の効果を上回るという、単純に統計的なトリックである可能性がある(p.269)

これがこの章の基本的なアイディアである。目の付け所がシャープである。
日本社会においては、年功賃金体系が普及していることから、引退者(=高齢・長期勤続者)の平均的賃金が若年の新規参入者の平均的賃金と大きな乖離をもつ。
この差がマクロ的な「平均賃金」に与えるインパクトは通常小さい(と考えられている)のであまり問題にはならないが、
「ただでさえ、少子化の影響から新規参入者が減少気味だったところに、2007年前後から、団塊の世代が60代にさしかかり引退過程に入ると、この乖離が一層増幅されてしまったとは考えられないだろうか」(p.269)という疑念を持って分析を行っている。

だから一言で平たくいうと、全く質の違う変動を混ぜて「全体」を分析しているのってナンセンスでは?というのが著者らの提案である。

彼らは賃金センサスの個票データから、同一事業所において同一人物と同定できるケースを接続して「疑似パネル」データをつくり、まず勤続者だけの賃金変動を推定している。
すると「かなりの被用者が負の変化、つまり賃金の下落を経験していた」(p.273)いっぽうで、雇用継続者における時間あたり賃金の平均の賃金増加率は4.1%であり「全般的に不況期といわれ平均賃金の減少がデフレの元凶といわれるわりに上記のように個別に個人をみると、時間賃金が増加した被用者も少なくないと解釈するべき」(p.273-4)であると結論づけている。

続けて、1993~2012の賃金変化をいくつかの要因に分解した結果、入職者と退職者の平均賃金差がマクロとしての「平均賃金」に与えるインパクトが推定されている。
新規参入者・退職者の時給はそれぞれ1217円/2010円であって、この差を埋めるには新規入職者の労働時間を86.7%増やすか、時給を2.87倍にする必要があるという。
このインパクトは先ほど述べた平均4%ほどの勤続者の賃金上昇では相殺しきれないものであるので、全体としては「賃金が下落してしまう」との結論が導かれてしまう

ただし、この章にも以下二つの疑念は残るところではある。

  1. 疑似パネルにおいては勤続年数1年未満の被用者は除外されてしまい、さらに近年の雇用の流動化から考えればその割合は大きくなっていると考えられるが、彼らをのぞいた勤続者の賃金の平均変化をもってして「賃金が上昇していた被用者が多数を占めていたのが現実的だと解釈できる」(p.276)とするのはどれだけ妥当であるのか。
  2. 経済状況の変化に対して企業がとる対応が、価格調整だけでなく数量調整(労働時間の伸縮)によってもなされることを考えると、「時間当たり賃金」を用いる妥当性はどうなのか。

しかし、総じて完成度が高く、面白い章であった。

Conclusion

こうやって書き出してみると、やっぱり各論レベルで面白い視点はたくさんあったから、それだけで一つの書の価値としては十分なのかもしれないな~。
従事する内容や職業こそ違えど、16章の上野・神林論文みたいな、定着した「見方」の流れをかえるような仕事をしたいな、と思いました。



遥かなる道 / アンダーグラフ

Enjoy!!

*1:やっとp.200くらいまできた

*2:「工学部ヒラノ教授」シリーズに毒されすぎたイメージである

*3:私しか呼んでないです、すみません....

*4:この時期が対象となっているので失業率⇔賃金上昇率は負の相関をもっているが、いわゆるフィリップス曲線のフラット化が指摘されている00年代以降に限定したら色々変わってくるのでは、という疑念はある

Rからestatapiパッケージを通してe-stat APIをつかう

Introduction

きのうの#JapanRで、「e-statの中の人」こと西村氏が発表されていて、e-statの近年の発展やAPIやLODの使い方について丁寧な解説がされていた。

↓西村氏の発表
www.youtube.com

学生時代にe-statをつかうとき(そんなに機会があるわけじゃないけど)には、基本的にExcelファイルのほうをDLしていて使っていて、
そのくせ「DBの統合とかしにくくて使いにくいなぁ...」とか思っていた(よく調べずに文句をいっててごめんなさい...)ので、
”鉄は熱いうちに打て”というか、"善は急げ"な感じで、e-statのAPIを使ってみる。
とりあえず一通りの機能を実際に使ってみて覚えたい。

◆参考URL

e-stat APIの基本仕様

どんな機能があるか

上の動画内で西村氏も説明されているが、e-stat APIは7つの基本機能を提供している

  1. 統計表情報取得
  2. メタ情報取得
  3. 統計データ取得
  4. データセット登録
  5. データセット参照
  6. データカタログ情報取得
  7. 統計データ一括取得

このうち、よく使いそうなのは(赤太字にした)統計表情報取得(IDを取得するのに使う)、統計データ取得で、メタ情報取得APIもたまにつかうかな...くらいだと思う。
目的の統計が、DB対応していない場合は、データカタログ情報APIでURL取得→直接DLの流れになるので、そちらも一応抑えていきたい。
上記の仕様解説のページにあるように、取得しようとする形式(JSON/XML/CSVなど)によってアクセスする対象のURLが異なってくるのには、注意したい。

パラメータについて

APIにおいて重要になるのは、どういうパラメータの種類があって何を指定すべきか、を知ることである。
estatapiパッケージ(後述)においても、各関数の引数がAPIのパラメータと対応を為している。

だから、パラメータについての公式仕様をしっかり確認すべき。
統計表情報取得機能のパラメータについて、統計分野(statsField)と、政府統計コードor作成機関(statsCode)に関しては「そもそも何を指定すんねん」感があるので、次のURLを参照すべし

Rから使ってみる

とりあえずの目標設定としては、わりと昔め(平成初期)の産業レベルの男女・年齢別労働人口などを取得したいとする。

estatapiパッケージを使う

Rからの利用にあたっては、Hiroaki, Yutani氏がestatapiというパッケージを公開している(参考URL 2参照)のでそれをつかう。
クラッチでゴリゴリ書く、というのも勿論アリなんだけど、参考URL1の記事をみてもらえれば分かる通り、前処理だけでかなり煩雑になってくるので、ここはありがたく前人の知恵を拝借させていてだく。

各関数の戻り値はtbl_df形式で取得できるため、Rに慣れているひとなら加工しやすい。
別にtibbleが嫌ならすぐにas.data.frame()してもいいし。

各機能をつかう前にアプリケーションID(登録するとすぐに付与される)を登録しとくこと。

api_key <- "XXXXXXXXXX"

機能1:統計表を検索してIDを取得する

e-stat APIを利用する最終的な目標はデータを取得してRで分析すること(がほとんど)だと思うけど、そのためには表のIDを取得することが必要になる。
そこで、estatapi::getStatsList()を使うと、データを検索することができる。
主要な引数は以下の通り、

  • searchWord :検索語。 OR やANDが使用可能。
  • surveyYears:調査年、"2014" , "201303", "199906-200506"のような形式で指定
  • statsField:統計分野,上記参照
  • statsCode:統計コード , 上記参照
  • use_label:可読性を考慮したLabel を使うかどうか(TRUE or FALSE)
  • limit: 最大何件を取得するか

たとえば、総務省(code:00200)がやっている「労働・賃金」分野(code:03)の1989-1995年の調査で、「産業」「年齢」というwordを含むものを最大100件取得したいときには以下のようなコードをかく。

res1 <- estat_getStatsList(appId = api_key , searchWord = "産業 AND 年齢", surveyYears = "199001-199512",statsCode= "00200" ,limit=100, statsField = "03")
res1_df <- as.data.frame(res1 )
head( res1_df, 2)
#' @id        STAT_NAME GOV_ORG                STATISTICS_NAME
#' 1 0000140293 就業構造基本調査  総務省 平成4年就業構造基本調査 全国編
#' 2 0000140562 就業構造基本調査  総務省 平成4年就業構造基本調査 地域編
#' TITLE
#' 1                                                                         従業上の地位(2),産業(35),男女別(3),平均年齢(1),平均年齢(有業者),全国(1)
#' 2 男女別(3),産業(13),従業上の地位(2),平均年齢(有業者)(1),平均年齢(有業者),都道府県(48)・13大都市(13)・14地域(12)・4大都市圏(5)
#' CYCLE SURVEY_DATE  OPEN_DATE SMALL_AREA COLLECT_AREA MAIN_CATEGORY
#' 1     -      199210 2007-08-31          0     該当なし    労働・賃金
#' 2     -      199210 2007-08-31          0     該当なし    労働・賃金
#' SUB_CATEGORY OVERALL_TOTAL_NUMBER UPDATED_DATE     TABULATION_CATEGORY
#' 1       労働力                  210   2007-09-07 平成4年就業構造基本調査
#' 2       労働力                 6084   2007-09-07 平成4年就業構造基本調査
#' TABULATION_SUB_CATEGORY1 DESCRIPTION
#' 1                   全国編            
#' 2                   地域編            

searchWordは"労働 AND ( 男女 OR 産業)"みたいな形の指定もできる。

どの統計がお眼鏡にかなってそうかは、とりあえず上で取得した検索結果一覧をclipboardに張り付けて、excelにペーストしてから*1適当にフィルタで絞っていくのが一番早い気がする(もっとsmartな方法はあるのかもしれませんが...)

clipboardにdata frameを貼り付け方法は以下参照。
ronri-rukeichi.hatenablog.com

機能2:メタデータを取得する

estatapi::estat_getMetaInfo()を使うことによりメタデータを取得してみる。
引数はappIDとstatIDのみ。

とりあえず、上の方法でデータ取得した中から、table ID:140292の
「従業上の地位(2),産業(35),男女別(3),年齢(12),有業者数,全国(1)」という表のメタデータを取得してみよう。

meta1 <-  estat_getMetaInfo( api_key,"0000140440" )
str( meta1)
# List of 7
# $ cat01 : tibble [2 x 3] (S3: tbl_df/tbl/data.frame)
# ..$ @code : chr [1:2] "000" "001"
# ..$ @name : chr [1:2] "総数" " うち雇用者"
# ..$ @level: chr [1:2] "1" "1"
# $ cat02 : tibble [3 x 3] (S3: tbl_df/tbl/data.frame)
# ..$ @code : chr [1:3] "000" "001" "002"
# ..$ @name : chr [1:3] "男女計" " 男" " 女"
# ..$ @level: chr [1:3] "1" "1" "1"

names( meta1)
#[1] "cat01"  "cat02"  "cat03"  "cat04"  "area"   "time"   ".names"

「catXX」に変数の情報が入っていて、「area」はデータ収集の地域に関する情報が、「time」には調査時点に関する情報が、「names」には各変数(例:cat01)の名前(例:従業上の地位)などが入っている。

ちなみに変数情報(「catXX」)は、以下のようになっている。

head(meta1$cat04,3)
# A tibble: 3 x 4
# `@code` `@name`  `@level` `@unit`
# <chr>   <chr>    <chr>    <chr>  
#   1 000     総数     1        千人   
# 2 001      農林業 1        千人   
# 3 002      漁業   1        千人   

コード、対応する値、データ収集の地域レベル、単位がわかるので、のちのちデータ取得してから分析を行うときに有用である。

機能3:データ本体の取得

やっとたどり着いた本丸。用いる関数は、estat_getStatsData
appID , statsDataIDのほかに、いくつかの引数を指定できる。
それ以外の引数の詳細は公式ドキュメントを参照すればよい。

基本的に絞り込みを行う時はlvXXX, cdXXX, cdXXXFrom , cdXXXtoを使い、何で絞りたいかに応じて、XXXをTab(表章), Time(時間), Area(地域),CatXX(各項目)で置き換えればよい。
たとえば、先ほどのデータを女性(コード002)のみに絞って取得するには以下のようにする
(この絞り込みの上で、さきほどのメタデータ取得が役に立つわけですね。なるほど.....)

dta1_f <- estat_getStatsData(api_key ,"0000140440" ,cdCat02 = c("002"))
dta1_f_df <- as.data.frame( dta1_f)

head( dta1_f_df,2)
# cat01_code 従業上の地位140014 cat02_code 男女別140001 cat03_code
# 1        000               総数        002          女        000
# 2        000               総数        002          女        000
# 産業140015 cat04_code 産業・1年前140087 area_code 全国140001  time_code
# 1       総数        000               総数     00000       全国 1992000000
# 2       総数        001            農林業     00000       全国 1992000000
# 時間軸(年次) unit value annotation
# 1       1992年 千人  1412       <NA>
# 2       1992年 千人    12       <NA>

とても便利だ。。。。

機能4:データカタログの取得

e-statはDB対応していない統計表もたくさん収録されていて、それらは上のように直接APIからデータとして読み込むのは難しい。
しかし、estat_getDataCatalog()を使うことによって、それらをDLするためのURLを取得できる。
基本的な引数は検索用のestat_getStatsList()と同じで、dataType= c("CSV", "PDF", "DB","XLS")引数を使うことで、データの種類を絞り込む

catalog1 <- estat_getDataCatalog(appId = api_key, searchWord = "チョコレート", dataType = c("PDF", "XLS"))

head( as.data.frame(catalog1)[,1:12],2)
# @id
# 1 000000701890
# 2 000000701988
# NAME
# 1     価格分布_1_業態別価格分布-全国,都市階級,都道府県_0104チョコレート
# 2 価格分布_2_立地環境別価格分布-全国,都市階級,都道府県_0104チョコレート
# TABLE_CATEGORY TABLE_NO                                   TABLE_NAME
# 1       価格分布        1     業態別価格分布-全国,都市階級,都道府県
# 2       価格分布        2 立地環境別価格分布-全国,都市階級,都道府県
# TABLE_EXPLANATION TABLE_SUB_CATEGORY1 TABLE_SUB_CATEGORY2
# 1                      0104チョコレート                    
# 2                      0104チョコレート                    
# TABLE_SUB_CATEGORY3
# 1                    
# 2                    
# URL
# 1 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?&statInfId=000000701890&fileKind=0
# 2 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?&statInfId=000000701988&fileKind=0
# DESCRIPTION FORMAT
# 1                XLS
# 2                XLS

この$URLにアクセスすることで、直接DLができる。

Conclusion

同一調査の同じテーブルの時系列推移とかを追いたいときにかなり便利だと感じた。
あと、XLSやCSV開いてから変換するよりはかなり工数が削減できそう。
ありがとう#JapanR!!


SOFFet - 人生一度(official video)


Enjoy!!

*1:貼りつける前にデータ形式を文字列にしとく

【備忘】村上春樹・柴田元幸『本当の翻訳の話をしよう』(2019)

本当の翻訳の話をしよう

本当の翻訳の話をしよう

  • 発売日: 2019/05/09
  • メディア: 単行本

Introduction

大御所(と見られることは本人は嫌がられるだろうけど)村上春樹が東大名誉教授であり英語の文学翻訳の第一人者でもある柴田先生と翻訳について語りつくした書。
自分は失礼ながら殆ど村上春樹の書いた小説をよんだことはない*1けど、とても面白かった。

総評としては、とにかく二人とも翻訳が好きでしょうがないんだな、っていうところが滲み出ている点が、この本全体を貫くポジティブな雰囲気をつくりあげていてGoodだった。
たぶん彼らは英文に対する訳文をいくつか並べてワイワイ話しているだけで6時間くらい酒が飲める人種なのだな、と感じる。
最終章では同一の英文に対して、村上訳 vs 柴田訳を併置してお互いの違いをひたすら検討していくのだが、それがとても楽しそうでよい。
本だからもちろん彼らの表情をとらえる映像はないんだけど、それでもこの話をしているときの二人は笑みが絶えなかったんだろうなって感じがするのである。

時間をみつけて、柴田先生や村上さんの訳したものが読みたくなるような本でした。
....とか言いつつも、個人的に心に引っ掛かるのは翻訳そのものの話じゃなくてトリビアルなエピソードだったりするので、それを以下に備忘。

印象に残った箇所の備忘

明治の翻訳における漢学の役割

この本は基本的に村上と柴田両氏の対談本なんだけど、中盤に柴田先生が明治時代の翻訳事情について解説した講義録が一章収録されていて、これがとても面白かった。

江戸時代までの鎖国状態から一気に海外のものを摂取していく流れになるのが明治という時代。
しかし急激な変化のなかでは、欧州由来のことばに対して既存の言葉では適切に対応付けができない、ということが起きるわけである。
ここで重要な役割を果たしたのが、当時の知識人のなかに蓄積されていた漢学の知識であったという

森田思軒が挙げるいろんな例をみると、西洋語を訳す際に西洋対日本という対比だけでなくそこに中国、もしくは漢語が大きな要素としてあったことが伺えます。


明治時代に使われ始めた「自由」や「権利」といった言葉の出所は中国の古い文章だったりする。
そのいっぽうで、一見古い漢文からとってきたように思える言葉が、日本人が独自に組み合わせて作った言葉だったりもします。

「自由」や「恋愛」という語彙もなかった当時の日本で、あっという間に訳語ができていったのは、
日本人が漢語を使うことができて日本語にない西洋の単語に対し、古い漢文から拝借したり、適当に漢字を組み合わせて簡潔な訳語を作れたことが大きい
です。
このあたりは柳父章の「翻訳語成立事情」(岩波新書)などで詳しく述べられています。(p.114)


漢学が西洋の学問や文学に単純に置き換えられていったのではなく、前者があったからこそ後者の受容もうまくいった、という視点は目からウロコだった。
あと『翻訳語成立事情』も読みたくなってしまった。

二葉亭四迷の「あひゞき」の翻訳が当時の文学に与えた影響

「あひゞき」が後世に影響を与えたのは、なんといっても、この一節にみられるような自然描写です。
明治三十一年に国木田独歩が『武蔵野』を書いていますが、第三章では「あひゞき」を一ページ以上引用し、「あひゞき」を読んで武蔵野の自然美や、落葉林の美しさがわかったと言っています。


美しい風景があるから、そういう文章が生まれたのではなく、風景を愛でる文章があったから自然を見る目が生まれてくる、と。
これは二葉亭の文章の影響力を論じるときに誰もが触れるところです。
(p.109)

同時代人にここまで言わせる二葉亭四迷はすごいし、国木田独歩も律儀だなぁ、と。
あと、江戸までの紀行文にはあまり自然の美しさの描写ってなかったのかな、ということが単純に気になった。
青字の部分に関しては後述。

漱石に対する村上春樹の評価

明治期の作家は海外の文学を翻訳しながら摂取したことが文体に関して影響を与えているけど、夏目漱石は違うし完成度も高かったよね、というのが村上の評価である。

文体に対する提案といえば漱石が浮かびますが、漱石は漢文の知識と英文の知識、江戸時代の語りみたいな話芸を頭の中で一緒にして、観念的なハイブリッドがなされていたと思うんです。
だから漱石は翻訳をする必要がなかった。
(中略)
漱石は文体に対してコンシャスだったと思うんです。だから彼を超える文体を作る人はその後現れなかった
志賀直哉川端康成も根底にあるのは漱石の文体なんです。
(p.60-61, 発言者は村上)

漱石は和洋中すべての文体に通じそれを内部配合できた怪物だった、という。
なんかこういう評価をみると、漱石の作品を読み直したくなる(至極単純)

短編小説家を支えたアメリカ50'sの雑誌文化

pp.159-162あたりでは、なぜ1950年代のアメリカですぐれた短編小説(家)がたくさん出てきたか、という点に関しての時代背景が解説されている。

ウィリアム・ショーンが『ニューヨーカー』の編集長をやったり、ギングリッチがエクスファイアをやったりした頃は、
そういう雑誌を買って短編を読むというのが都市生活者の大事なスタイルだったんです。
それが50年代にピークに達して、その後はだんだん、雑誌はとにかく定期購読者を増やせ、広告を集めろ、中身はそれらしいものを入れておけばいい、という経営方針にかわっていく(p.160)


結局あの頃のアメリカはどこに行っても雑誌が置いてあったし、歯科医の待合室でもコミュートする電車のなかでも人は雑誌を読んでいた
サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(1951)でもホールデンは列車に乗る前に3冊くらい雑誌を買います。そういう文化があった(p.161-162)

『プレイボーイ』創刊当時(1953年)は、ヌードと同じくらい小説にも気合をいれていた、ということに触れられていて、はえーってなりました。

小説に重要なのは整合性よりも「引っ掛かり」

整合性なんてどうでもいいんですよね。
読んでる方は面白いキャラクターが出てきたり、ここが面白いという部分がいくつかあれば納得して読んで行けちゃうんだよね。
それは小説の力だと思う。
小説って、何かを5つ書いて、3つが効いていれば、あとの2つは外れてもいいんですよ。力さえあれば。
(p.240, 発言者は村上)

"偉大なるアメリカ"の落日に伴う小説側の変化

フィリップ・ロスの「偉大なるアメリカ野球」(The Great American Novel)をはじめとするユダヤ系作家の戦後の作品を輝かせていた"(当時の)米国社会の相対化"、という目線自体が1970年代になると有効性を失うよ、という話。

ユダヤ系独特の饒舌と自虐。その点ではナサニエル・ウエストという先達がいました。
早死にしたんで作品の数はあまり多くないのですが、『クール・ミリオン』なんかはアメリカン・ドリームの徹底的なパロディになっていて、『グレート・アメリカン・ノヴェル』と似ています。
アメリカの強さ、正しさを徹底的に笑いのめすという。
このあとになると、笑いのめす対象としてのアメリカのグレートネスというものが成立しなくなり、たとえばレイモンド・カーヴァーの時代になる。
(p.241, 発言者は柴田)

かの有名な「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が公刊されるのが1979年だけど、そういう他国への称賛というのも、米国社会の自画像が屈折していったこの70'sの動きと表裏一体なんだろうな...とか読みながら思った次第。

翻訳に求められるのは「自然な日本語」じゃないよ、という話

日本語と英語は1対1対応しないのが難しい...みたいな認識はすでに人口に膾炙しているけども、
じゃあぴったり符合するパーツがないなかで翻訳文を組み立てていくうえで、何を「保存」すべきか、という話。

村上:
翻訳というものは、日本語として自然なものにしようとは思わないほうがいいと、いつも思っているんです。翻訳には翻訳の文体があるわけじゃないですか。


柴田:
僕は文章のスピード感だったり、緻密な感じ、緩い感じ、自然な感じなどといったことを、原文と等価に再現したいと思っています。
自然な、誰にでもわかる文章が、自然でない訳文になってしまうことのないように気を付けたいと思っているわけです。
ところが、藤本さんの翻訳を読んでいると、そのあたりのことを考えすぎてもよくないのかなと思います。訳文をつまらなくするというか。


村上:
翻訳には翻訳の文体があっていい
僕が自分の小説を書くときの文体があり、そして僕が翻訳をするときの文体というものがあったとして、両者は当然違いますよね
(p.214)

村上さんは彼のオリジナルを創造することを日常的に行ってきた人で、柴田先生はあくまでもオリジナルを損なわないで日本に伝えることのみに専心してきた人なので、その差異が翻訳上の優先事項に反映されているな、と。

Conclusion

個人的に一番心に残ったのは、二葉亭四迷の影響についての柴田先生の言葉、
美しい風景があるから、そういう文章が生まれたのではなく、風景を愛でる文章があったから自然を見る目が生まれてくる」であった。

これって文学だけでなくあらゆる「見方」を提供する営み(科学もそうだし、他の芸術もそうだ)にも共通することだなと思う。


最近ハマって大人買いしてしまった「ブルーピリオド」で一番好きなシーンが、
絵を描く知識や技術をみにつけた主人公八虎が、初詣ですれ違った女性の鞄(金具にサビがある)を見て、これを描くにはどう工夫すれば..と考えた後に「錆って絵としてみるとかっこいいな」って気づくシーン(3巻)である。そこで、

まさか錆をかっこいいなんて思う日がくるとは....
....絵を描いてたから気づいたかっこよさだ
でも...絵を描いてるだけじゃ気づけなかったかっこよさ
かっこいいもんは世界に無限にある 俺がそれに気づけなかっただけなんだ

と八虎が思えたのは、彼が美大受験にむけて努力し、多くの優れた絵や絵画の理論に触れながら苦闘してきたなかで、現実を切りとる視角が彼の中に蓄積してきたから、なのである。

齢を重ね、現実的制約が眼前に迫るなかで崇高な理想を掲げづらくなっていくけど、望むらくは、仕事での自分のアウトプットが他の誰かにとってそういう役割を持てたらよい、と思いますね....



Intouchables - Danse de Driss lors de l'anniversaire de Philippe [1080 HD][EN,FR SUB]

Enjoy!!

*1:「色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年」だけはなぜか惹かれて購入して一気に読んだ。怒られそうだけど北大の久保先生も私と同じで、村上春樹のエッセイは好きだけど小説は読まない人らしくて、謎の安堵を覚えた

【簡単な備忘】『分解するイギリス:民主主義モデルの漂流』(近藤康史, 2017)

図書館で借りて、最近移動時間や休憩時間に読んでいた本。
(新着図書のところに置いてあったから今年の本かと思いきや3年前の本だった)
政治のことは国内外含めわからないし、イギリス社会にも全然詳しくないが、単純に勉強になった。

まったくまとまった文章ではないが、気になったフレーズだけ箇条書きで残しておく

箇条書き(キーワード:頁)

EU離脱「後」の保守党・労働党の内部分裂:19
・「決められる政治」のモデルとしての英国:25
・英国では、(閣僚以外の)議員が官僚:26
・日本政治の「ウェストミンスター化」:27
・二大政党合わせての得票率の低下&政権交代の低頻度化(80's以降2回だけ):28
・議会制民主主義の制度的パーツ:28
・多数決型民主主義 vs コンセンサス型民主主義(byアレント・レイプハルト):29
・すべてのパーツが「多数決型」であったかつてのイギリス型民主主義
・"吸収できない「民意」が増えていく"(=民意の漂流):32
・議会主権("憲法のような、議会を超える権威は存在しない。これが、イギリスにおける「議会主権」である"):40-42
・執政優位の議会制度:43-44
→「もともと議会による執政(国王)への同意の調達という原理を起源として持つため、その執政が国王から内閣へと変化した現代においても、議会は執政権力の正当化の手段という性格を色濃く残している」
庶民院(下院)の優越→貴族院の「一時停止的な拒否権」への限定:44-45
・「日本において参議院がもつ拒否権は意外と強い。比較政治学者のアレント・レイプハルトは、日本を「中程度に強い二院制」に位置づけている」:46
小選挙区制における「三乗比の法則」(第一位政党の過大評価):55
デュヴェルジェの法則:54-56
→「デュヴェルジェは、このようにして「より大きな悪を防ぐために、二つの対抗者のうちのより小さな悪に、自分たちの投票を委譲する自然の傾向」が生じてくると述べた。これが第二のメカニズムである「心理学的要因」」(p.56)
・イギリス国民の小選挙区制度・単独政権への支持(=連立政権を忌避):58
・政権の安定性のもうひとつの条件:政党内部の一体性:60
→「小選挙区制に基づく二大政党制の場合には、政党の一体性が低くなる場合がある。なぜなら、さまざまな違いを持った多数の議員が二つの政党へと糾合されているため、各政党のなかに多くの潮流を含むことになるからである」(p.60)
・政党内の一体感の二大要因「規律」と「イデオロギー的凝集性」:62
・政党の同質性を生み出すものとしての「支持者の同質性」:64
・「執政優位」が必ずしも首相の強力なリーダーシップに結びつくわけじゃない:71-72
・対立政治論 vs 合意政治論:88-92
・合意政治論の二つの根拠:91-92
→①統治政党としての責任を見据えることによる現実的な政策への収斂(by ロバート・マッケンジー
→②中位投票者の理論による説明
・合意(60'sまで)→敵対(70~80年代)→合意(90年代以降)というトレンド:93-94
ベヴァリッジ勧告における排除すべき「5つの巨人」(欠乏、疾病、無知、不潔、無為):95
・ウィルソン労働党政権(1964~)における"「統治政党」としての労働党と、労働者の利益を実現する「階級政党」としての労働党との間のジレンマが噴出":100
・合意政治の破壊の旗手としてのマーガレット・サッチャー:102-105
労働党の左派純化による転落:109-110
・ブレア労働党第三の道」における保守党との政策の相対的接近(「新しい合意」説):114-116
→「さまざまな違いや対抗軸は形成されているとはいえ、サッチャー政権が作り出した基礎に大枠では立ったうえで、貧困などそれが生み出した問題点を修正していくという性格を、ブレア労働党が持ったことも確かである」
有権者の中道化:121-123
→「蒲島・竹中は、このイデオロギー分布の変化を国際比較し、イギリスは有権者の中道化が最も進展した国であると結論づけている」(p.123)
・階級投票の瓦解と「ヴェイランス・モデル」の勃興:122-125
・「新しい合意」の副作用:128
→「二大政党間での合意政治による副作用によって、イギリス民主主義の核であった議会への民意の反映という点では、排除されてしまっている人々の存在が大きくなってきているのである。特にそれらは、経済や福祉国家を中心とする二大政党間での「合意」に収まらない、新たな対立の存在に伴って大きくなりつつある
・党内対立の鎮静化手段としての、国民投票住民投票:203-204
→「目論見通りの結果をもってその争点に決着をつけることに成功すれば、政党リーダーは政党内対立を鎮静化させて政党の一体性を確保することができる。それに伴い、政党のリーダーの優位性、また政権政党の場合には首相をはじめとする執政の優位性を維持することも可能となる」(p.204)
小選挙区制への国民の根強い支持(選挙制度に関する住民投票in 2011):204-208
国民投票における独立否決でも党勢を伸ばしたSNP:209-211
←「この住民投票において、SNP対イギリス主要政党という対立構図が形成され、これまでスコットランドで一定の支持を受けてきた労働党自由民主党は、スコットランドへの対抗勢力としての括りに入ってしまった」(p.211)
EU離脱・残留をめぐる保守党内の分裂:213
EU離脱・残留をめぐる労働党の曖昧な立場:214
→「労働党が「残留」の立場を取っていることを知らない人は、労働党支持者の中にも多かった」(p.214)
・政党横断的な対立がある論点に関しての「民意の漏れ」:216-217
・左派ポピュリスト的潮流の既存政党への反応としてのコービン労働党首誕生:222-223
・「主に得票レベルでは多党化が進み、二大政党制は崩れつつある。ただそれ以上に問題となるのは、選挙制度小選挙区制のままであるため、得票率での多党化を議席数においては二大政党に有利な形へと変換する効果は依然として働いていることである」:227
・他の制度的パーツにも波及する要因としての「分権化」:228
・ブレア以後の有権者からの直接敵支持依拠型リーダーシップがもたらした「議会主権」のゆらぎ:230-232
・制度的パーツの異なる方向性への変化とその結果としての「民主主義の漂流」:233-237

簡単な感想

ある機能に対して、下位制度(パーツ)の結合としての「制度」が機能しているように思えるときって、
制度パーツ間の補完がうまく順機能的にかみあっているんだけど、外部環境の変化への対応のため改革の必要性が出てきたときに、
あるパーツは従来の方向性を強化するようにして、別のパーツは従来とは逆の方向への転換を図ってしまいどんどんうまくいかなくなる、というのは
政治だけでなく労働市場や教育、スポーツなど色々な領域で起きていることではないだろうか。

二つの対立的な志向性を表わす特徴群が混在する形で、「制度のセット」をつくってしまうと、それはうまくいくわけがないという指摘は昔よんだJ・ジェイコブスの「市場の倫理、統治の倫理」を思い起こした*1

あと、たぶんこの本の本筋からは外れるんだろうけど、EU離脱or残留の国民投票前の各陣営のキャンペーンが、
残留側はファクトベースの説得を試みたけど、離脱側は(いわゆるpost-truth的な)誇張やデマを活用したものであって、
後者が勝ってしまったっていうのは、日本の現況に鑑みても色々考えさせられるところではあった。


BLUE ENCOUNT 『ハミングバード』Music Video【TVアニメ『あひるの空』オープニングテーマ】

Enjoy!

*1:こうやって再読したくなる本が増えていくから時間はいくらあっても足りない

フィリップス曲線ふたたび

◆Outline


(いきなり脱線)
最近息抜き時に内田義彦の『読書と社会科学』を読んでいて、なかなか耳が痛いひとことがあったので書き留めておく。

本は、感想にまとめやすい形で読むべきものじゃない
(中略)
少なくとも、古典を古典として味読し了解するには、社会科学の本をも含めてそういう読書態度は禁物です。
感想を狙いに本を読んじゃいけない。
感想は読んだ後からー結果としてー出てくるもので、それを待たなきゃいけない。
さいしょから感想を、それも「まとめやすい形での」感想を求めて、いわば「掬い読み」をするかたちで本に接するから、せっかくの古典を読んでも、そのもっともいいところ、古典の古典たるがゆえんが存するところを取りのがしてしまう
だし柄を拾って肝心のエキスを捨てちゃうみたいなもんです。
ーーー『読書と社会科学』岩波新書, p.54

他にも色々な箴言が詰まった本であった*1
戦前生まれの碩学の方が大衆の読者向けにかみ砕いて一般的なテーマを扱う本ってなんでこんなに面白いんでしょうね。

読書と社会科学 (岩波新書)

読書と社会科学 (岩波新書)


Introduction

ちょっと趣味と実益を兼ねて、鶴先生(+二人)の『日本経済のマクロ分析』をよんでいた。
色々面白い知見があった(1990年代以降、景気回復と労働需給や物価・賃金、そして企業の設備投資が結びつかなくなっている、など)。
※実証知見のフェーズはむっちゃ面白かったのだが、じゃあどうするの?っていう提言の段になると、人的資本投資!ICT活用!中小企業の活性化!など「いやそれこれまでの分析なくても言えるやんけ」みたいな急速な陳腐化を見せて尻切れトンボに終わるのはeconomistあるあるなのだろうか......

が、すごい初歩的な躓きとしてフィリップス曲線が登場ってなんでこの形になるんだっけっていうロジックが全然思い出せなくて煩悶してしまったので、
浅子ら編著『マクロ経済学』をひもときつつ学びなおす。

一応大学の教養課程で(マクロ)経済はとっていたはずだが、こうやってことあるごとにその知識の「身になってなさ」が露呈するので、若き日の自分の学問への姿勢を叩きなおしたくなることが多々ある日々であることよ。

フィリップス曲線とは

フィリップス曲線とは、賃金上昇率(あるいは物価上昇率)と失業率の負の相関関係をあらわす曲線のことである。
もともとは、1950年代後半に英国の19世紀後半からの100年間のデータにもとづいてW. Phillipsが命名したものである。
だから、はじめは経験的な観察から帰納的に導かれたものであり、理論的な演繹にもとづくものではなかった(浅子ら「マクロ経済学」p.249)。

JILの大塚氏のコラムにもあるように、
この曲線はすごい大まかな含意としては、インフレ問題と失業問題の二律背反を示唆している。

また、経済学内の学説の趨勢にあたえた歴史的影響としては、
1970年代の世界的不況時に、インフレーション下での失業増大というフィリップス曲線に違背するような事象を説明できなかったことが、
ケインジアンの没落(とその後の合理的期待形成学派の勢力拡大)のきっかけとなった。

また脱線するが、ニューケインジアンによる巻き返しが行われる前の
米国経済学における1980年代初頭のケインジアンの悲哀の描写が、宇沢(1989, 『経済学の考え方』p.258)にあって興味深い。

ミネソタ大学には、私の滞在するしばらく前に、ジェームズ・トービンが一学期講義にきていたが、
RE信奉者の妨害にあって、ほとんど講義を進めることができなかったという。

そのころ、トービンはアメリカン・ケインジアンの総帥とみなされていて、
ブキャナンの『赤字の民主主義:ケインズ卿の政治的遺産』に代表されるように、反ケインズ学派の攻撃の焦点にいた。
トービンが笑いながら、アメリカの大学院の経済理論の分野での博士論文の80%は合理的期待形成仮説に関係するものだといっていたのが印象的である。
(宇沢 1989: 258)

(注:RE=合理的期待形成仮説のこと。ちなみに宇沢がミネソタ大に滞在したのは1980年)

アメリカは自由の国ではあるけれども、同時に自由の名のもとに相反する思想の間の闘争が繰り返される国でもある、というエピソードであった。
いや、でもさ、そこまでするか。

フィリップス曲線のロジック

上述のとおりもともとは、経験的観測から導かれたフィリップス曲線であるが、理論的に導くこともできる
以下、浅子ら「マクロ経済学」(pp.249-250)にもとづく。

N^Dを事前的労働需要量*2とし、N^Sを事前的労働供給量とする。
そして実際に実現した雇用量(事後的労働雇用量という)をNとする。
失業率はU= \frac{N^S-N}{N}で、未充足求人率はV= \frac{N^D-N}{N}(Vはvacancyの略ですね.)となる。

すると、労働市場における事前的な超過需要量(あらかじめ採りたい量-あらかじめ雇われたい量)N^D- N^Sは以下のように変形される
N^D- N^S = (N^D- N ) -( N^S- N)= (V-U) N

ここで仮定:「NとVは短期的に所与である」をおけば、超過需要量N^D- N^Sは失業率Uと負の関係を描くはずである。
さらに仮定:労働力への超過需要は価格=賃金の上昇につながるを追加すれば賃金水準←(正の相関)→超過需要←(負の相関)→失業率、となる

これにて、フィリップス曲線を支えるロジックが完成した。
仮定が多いやん!ってなるけど、経済学に限らず社会科学ってのはいわば”モデルの学”なので、つよい前提をおくことによって対象の(まさに”経済的"な)説明が可能となっている、ということを理解せねばならない。

これにさらに仮定:物価水準と賃金水準は安定的に正の相関にある、を付け加えると物価版フィリップス・カーブも導かれる。

日本におけるフィリップス曲線のフラット化

ちなみに、鶴ら(2019:104-105)はフィリップス曲線のフラット化を、
観測時期を①1970~80年代②90年代以降、のふたつに区分したうえで回帰直線をひくことで、わかりやすく図示している。

Y軸に物価の指標として消費者物価指数、Y軸に「労働力調査」からとってきた完全失業率をとると、
①の時期にはシャープな負の係数推定値(-7.663)だったのが、②の時期にはかなりX軸と並行に近い傾き(-0.610)になっている。

同書の第三章で明らかになっているように、
ここ30年ほどの日本は景気循環⇔有効求人倍率(=\frac{V}{U})の連関も、景気循環⇔物価の連関も弱くなっているので、
曲線がフラット化しているのは論理的な帰結といえるだろう。

Conclusion:何が仮定されているのか?が大事

あらゆる社会科学的説明というのは、基本的に「モデル」にもとづく。
そして、モデルによって変数の数を減らし「思考の経済」を実現するうえでは「何を前提としているか」の設定と(経験的反証を可能とするような)明示が重要となる
(最近読んだ「統計学を哲学する」においても、帰納推論を可能とするには存在論的仮定(統計学においては、自然の斉一性の仮定としての確率モデル)が必要であることが指摘されていた)

上で述べたように、フィリップス曲線が想定通りの形状であるためには、

  1. N(雇用の実現数)とV(未充足求人率)が所与であること
  2. 労働の超過需要が賃金上昇をもたらすこと
  3. 物価と賃金の正の安定的相関があること

という三つの仮定が必要となってくる。

この三つの前提(とくふたつめ)が崩れてきている近年、フィリップス曲線が観測されないのは当然のことである。
また、未充足求人率Vが一定という前提①も、需給のミスマッチ状況の悪化/改善によって変動しうる。
そして鶴ら(2019:110)のUV分析の結果が示す通り、需給のミスマッチ状況は近年高まっている。

しかし、それは理論の欠陥を示すものではなく、「前提が崩れている状態で理論が妥当しなくなっている」という事態が起きているというだけのことで、
そもそもの前提条件が経験的反証が可能な形で提示されている時点で、それは説明理論として十分な価値がある。


SOFFet - 人生一度(official video)

Enjoy!!

*1:一応誤解のないように言っておくと、感想を書くこと自体を否定してるんじゃなくて、「手際のよい」感想文を書くクセがつくことを危惧しておられるのである

*2:この用語がわかりづらい。「事前的」とは?

【追加データ検証】マッシモ名古屋(とロティーナセレッソ)が前半先行されると追いつけないのはなぜか

マッシモ名古屋をデータで追うシリーズpart2.
小中先生(@konakalab)が新たな武器を授けてくれたので。

◆Outline

問題提起:あれから一か月経った現状と課題

以前、グラぽの記事に触発されてグランパスの「先行逃げ切り特化型」仮説の検証記事を書いた
ronri-rukeichi.hatenablog.com

その当時(20/10/2時点)、我らが名古屋グランパスセレッソ鳥栖、湘南、横浜FC、清水とならんで
「HTでビハインドだと必ず勝ち点0になってしまうクラブ」に名を連ねていた。
そこから、1か月が過ぎた今、状況はどうなっているだろうか。

10/31時点のデータから、前回記事と同様にX軸:HT突入時にビハインドであった試合数、Y軸:HTでビハインドのときの平均獲得勝ち点をプロットしてみる

f:id:ronri_rukeichi:20201104051924p:plain
データ出所: Football LAB

あれから試合は重ねたものの、相変わらず名古屋は先制されて前半を折り返すと必ず追いつけずに終わってしまうクラブであり続けている*1
また、同じく上位にいるロティーセレッソも一か月前と同じく「上位なのに先行逃げきられ組」となっている。

前回記事では、なぜ逃げきられてしまうのか?という要因についてはあまりデータから明瞭な答えを見つけられなかった。

そこで本記事においては、マッシモ名古屋とロティーセレッソが(リーグ上位であるにもかかわらず)追いつけない理由をデータから見つける
ということで、前回記事の追加検証的な位置づけとなります。

Embed from Getty Images

セレッソと名古屋の共通点:一部選手への起用の集中化

グラぽで名城大の小中先生がジニ係数をアレンジした「出場時間集中係数」なる指標を提案なさっていた。
0~1の値をとり、0に近いほど所属選手が平等に試合に出ており、逆に1に近いほど一部の選手のみが試合出場時間を独占していることを表わす指標だ。
grapo.net
ronri-rukeichi.hatenablog.com

2020/10/31時点のデータでこの指標を計算してみると、
名古屋:0.899(リーグ1位) , セレッソ:0.890(リーグ2位)となっている。
(ちなみにリーグで一番出場時間が分散しているマリノスは0.598。リーグ平均は0.733)

つまり、上位なのに前半先行されると追いつけない2クラブ(名古屋、セレッソ)は、リーグでもっとも一部選手に起用が固定化している2クラブでもあったのだ。

アプローチ:HTがビハインドである場合の勝敗関数の推定

※ここは統計的な手続きに興味がないかたは読み飛ばして構わない箇所です...

「データから追いつけない理由を見つける」とは言ったものの、それはどのように特定すればよいのか。
ここでは以下の順序ロジットモデル*2を利用して、HT時ビハインドのときの最終的な結果(=勝分負)に統計的に有意に作用する要因を見つけていく。

log( \frac{P(Y_{ij}=``Win")}{P(Y_{ij}=``Lose" or ``Draw")}) = \alpha_1 + \beta X_i + \gamma Z_{ij}
log( \frac{P(Y_{ij}=``Win" or ``Draw" )}{P(Y_{ij}=``Lose" )}) = \alpha_2 + \beta X_i + \gamma Z_{ij}

ここで、P(Y_{ij}=``Win")はクラブiが第j節に勝つ確率を表わす。
さらに、X_iはクラブごとに固定される要因群、Z_{ij}はクラブ×試合の組み合わせによって決定される要因群である。
たとえば、出場時間集中係数は前者であり、ポゼッション率(の過去5試合平均)は後者となる。

ここでXが要因候補となる各チームの特徴や、試合情報となり、\betaはその効果を表わす。
第1,2式の左辺はそれぞれ、「勝てる確率のオッズ(の対数)」「勝ちか引き分けれる確率のオッズ(の対数)」を示す。
まぁ簡単にいうと、負けよりも引き分け、引き分けよりも勝ちで終わるために必要な要因を見つけるためにこの分析手法を使う。

要因候補として使うのは、以下の変数である
※[F]はFootball LAB依拠のデータ、[S]はSofascore.com依拠のデータであることを示す。
 データ取得の方法に関しては過去記事を参照(記事1, 記事2

  • 出場時間係数(Jリーグ公式から独自作成)
  • 開催地(Home or Away)[F]
  • ボール支配率[F]
  • チャンス構築率*3[F]
  • シュート枠内率[F]
  • ドリブル成功率[F]
  • ドリブル阻止率[F]
  • 交代選手の合計出場時間[F]
  • FWの空中戦勝率[S]
  • インターセプト数[S]

を利用する。

集中係数(各クラブごとに決定される)と開催地以外の指標に関しては、その試合自体の数値ではなく、過去5試合分の平均値をつかっている*4
それは原因と結果の時間的前後関係を明瞭にするためであって、たとえば「リードされたから引かれてボール支配率が高くなった」みたいな原因と結果の逆転現象を回避するためである。

(以下技術的補足なので、読み飛ばしてもらってかまわないです)

  • 効果の解釈のため、開催地変数(0=Away,1=Homeの二値変数)を除くすべての投入変数は平均0標準偏差1となるように標準化(いわゆるZ得点化)している。
  • FWの空中戦勝率を候補変数としてピックアップしたのは、引いた相手を崩すうえで「空中戦に強いFW」が重要なのではないかと仮説をたててのぞんだ*5からである。
  • 「選手起用の固定化」の効果と「交代枠を使うor使わないこと」の効果を識別するために、交代選手の合計出場時間も入れている。

検証結果:後半追いつくためにチームに必要な力

勝敗関数の推定結果は以下の通りである。

f:id:ronri_rukeichi:20201105055409p:plain
データ出所: Football LAB

読み取れるのは以下のことである。

  • 前半ビハインドの状態から追いつくうえで、出場選手が固定化されることは統計的に有意な負の作用をもっている。出場時間集中係数(小中指数)が高いほど、最終的に引き分けたり勝ったりする確率が低くなる。
  • 守備に関する指標であるインターセプト数とドリブル阻止率が、後半で追いつき、逆転するための重要な要因として見出されている
  • チャンス構築率(=シュート到達回数/総攻撃回数)も有意水準はさがるものの)正の有意な影響をあたえている。
  • 予想に反して、FWの空中戦勝率は統計的に有意な影響を与えていない

先にも触れた通り、選手起用の固定化・集中化は前半先行されたの状態から追いつく確率を低める。名古屋・セレッソにはこの点が明確に該当している。

また、意外にも追いつくうえで重要な指標として見出されているのはインターセプトやドリブル阻止などの守備に関する指標であった。
しかし、名古屋は「堅守」とされ実際に失点数の少なさでもリーグ2位に位置するチームであり、守備には強みをもつはずである。
次は、この謎を解いていく。

名古屋(とセレッソ)に関する追加的考察

さて、リーグ全体のデータから後半追いつけるかどうかに関わる要因を見出せたところで、マッシモ名古屋の具体的な数値をみていき、現状の問題点を探る。

ビハインドでHTに突入した状況に限定した勝敗関数の推定において統計的有意と見出された四つの変数(インターセプト数、ドリブル阻止数、チャンス構築率、出場時間集中係数)だけ抜き出して、名古屋とセレッソの数値とリーグ内順位を並べたのが次の表である。

f:id:ronri_rukeichi:20201105093208p:plain
データ出所:Football LAB, Sofascore

ドリブル阻止率は高いものの、名古屋はチャンス構築率の低さ(リーグワースト5位)、インターセプト数の低さ(ワースト3位)、出場機会の固定化(ワースト1位)と、それ以外の「追いつけないチーム」の特徴を全て備えてしまっている
セレッソはチャンス構築率はリーグ中位だが、その代わりドリブル阻止率が低くなっており、インターセプト数はリーグワーストである。


①堅守のイメージに反してインターセプト数は少ないこと、②選手起用の固定化が進んでいること、が名古屋とセレッソに共通する「先行されたら追いつけない」要因となっている。

結論:じゃあ名古屋はどうすれば?

以上のデータ分析から、選手の固定化とインターセプト数の少なさが名古屋とセレッソという「上位なのに前半先行されると追いつけない」組の共通の問題点として浮き上がった。
これらの点を改善するための指針に関して、私見を述べていく。
(ここまでは「データから導かれること」でしたがここからは個人的な解釈が含まれるので、そこは一応ご寛恕いただければ)

ゴールに鍵をかける守備から網にかけるための守備へ

前提として、今シーズンの名古屋の守備は本当によくやっている。
昨季までを考えれば、12/27試合がクリーンシートというのは考えられないほどの数字で、当事者である選手も手応えを感じられているだろう。


しかし一方では、先日のゆってぃ氏の川崎戦後のレビューで、名古屋の守備に関して以下のような懸念が表明されていた。

ただ、守備に定評があると言われているが、今回のセットプレイの整理されてなさや、シーズン通して最終的に「気合」で守る守備を見ていると、もう少し理詰めで守備出来ないものかと思ってみたり…。

grapo.net

理詰めでの守備ができていない=再現性があるような形での「ボールの獲り所」の組織的なセッティングができていない、ということは上述のインターセプト数の少なさにも表れているように思える。

基本的にマッシモの守り方は4-4ブロックの形成とその修復・再構築を最重要視するような形に見える。
しかし場合によっては、どちらかのSHが飛び出して夢生・阿部(or シャビエル)と連動するような形でハメこむ守備も戦術的バリエーションに加えることで、先行されたときの「取り返すための守備」も向上させることが必要なのではないだろうか。

選手の固定化傾向の改善

今回の分析で名古屋の(セレッソとも共通する)問題点として、一部選手への出場機会の固定化・集中化が見出された。

確かに名古屋のサポーターからすれば、青木、児玉、渡邉、石田、秋山など期待している若手~20代半ばの選手をマッシモがほぼ起用していないことは不満とは言わないまでもモヤモヤする一因になっているのではないだろうか。

(あくまでも私見ですが)マッシモは攻守両面で「個人で完結できる」ことを重要視しているように思える。
「一人一殺」ができるかどうかが、大きな選考基準となっているように見えるのだ。

だから周りとのコンビネーションで崩したり守ったりする選手については、かなりプライオリティが低く設定されているように思う。
シミッチの能力をなかなか現状活かせていないのも、その「個が頑張る」ことを軸としたチーム作りと関わっていると感じる。
また、それは来期のレンタルバックが期待される杉森の受け皿を作るために必要なことでもある。


使える駒自体を急に増やすことはできないが、違うタイプの駒も生かせるような戦術的多様性を志向することは次のステップとして悪くない方策なのではないか。

最後に脱線:でもそれってマッシモだけのせいなの?

「選手の固定化はよくないよ、マッシモ」と言っておいて舌の根も乾かぬうちに反対のことも述べたい。

最近読んだ渡邉晋氏の『ポジショナルフットボール実践論』(名著です)において印象的だったのは、
レーニングに使える時間は限られていて、どうしても「あちらを立てればこちらが立たず」のトレードオフが起こってしまうということが赤裸々に述べられていることであった。
攻撃のトレーニングばっかしていると守備面でのミスが増え、逆に守備の建て直しを図ると攻撃面で仕込んだことが忘却されてしまう、という監督のリアルがそこには克明に描かれていた。

コロナ禍による変則日程においてトレーニングにおいて疲労回復」「前節の問題点の修正」「相手の分析・対策の落とし込み」などに時間をつかうと、「練兵」に割ける時間がなくなってしまう、というのがマッシモの直面する現状なのではないだろうか。

それでも未来に投資すべきだ、とするならばマッシモの評価をする側である強化部が「目先の勝ち点を多少落としてもよいから選手の育成にリソースを割いてくれてよい」と背中を押す必要がある。

さらにいえば、そもそも(質を議論する以前に)FWの枚数自体が足りていない、というのは直近のラグ氏のレビューでも指摘されている通りである。
grapo.net
(セレッソに関しても、あまり勝ち星に恵まれなかった少し前の時期に、ロティーナを批判するよりもFWの駒不足を嘆いている声を多く見た。)


だから、選手の固定化傾向を解きほぐすにはマッシモだけじゃなくてマッシモを評価する側である強化部の理解と胆力も不可欠である。


まぁ色々述べたけど、最後に言いたいのは「アーリアをピッチ上で早く見たすぎる」ということでした。

Enjoy!!

*1:勿論そもそも先制されてHTに突入している試合が少ないのは、それはめちゃめちゃ評価しなきゃですが

*2:本当は並行性の仮定などを検証しなければならないが、さすがに趣味の分析でそこまでガチにはやれません

*3:Football LABの説明では、シュート到達回数/攻撃回数で定義されている

*4:この変数作成の都合上、分析対象は各クラブが5試合消化した以降の試合に限られる。

*5:今名古屋にはエアバトラーがいないのは痛いと思ってたし、あとは相手に引かれてもケネディ闘莉王でこじ開ける2010名古屋の印象を強く抱きすぎてた

RIF回帰再訪

齢を重ねると物をすぐに忘れるために備忘録を多くとるようになるが、
さらに衰えが激しくなると、そのメモをみてもすぐに学んだ内容を想起できなくなるため、このような悲しい記憶の復元録を書くことに相成るのである。。。。

Introduction

RIF(Recentered Inverse Function)回帰と、それを利用した非条件付分位点回帰モデルを、昔(2年くらい前)にインプットし何なら実装するコードも書いたはずなのだが、悲しき哉ほとんど覚えていない。
文系脳*1のかなしいところで、なかなか数式や統計モデルと親しい友人になれない。
ので、自分のかいた過去のコードなり参考資料なりを頼りにして、記憶を復元(というか再構築?)する。
ちゃんと理解の過程まで文字に残しておかないと、のちのち自分が困る、という教訓をいくつになっても叩きつけられるのである。

◆参考URL

  1. 解説(Ryo Okui氏の講義スライド)
  2. James Gentle氏の説明 ←個人的に わかりやすい。途中の"Perturbations"くらいから読むべし。
  3. 利用例の論文①

RIF(Recentered Influence Function)とは

①:Influence function(IF)の定義


recenteredなinfuluence functionがRIFなので、まずIFが何かを知らなければ話が始まらない。
参考URL1には、以下のような定義が示されている

RIF回帰の仕組みを理解するために、まずはinfluence functionの定義から説明する。
一般の統計量\mu(F_y)について議論をすすめる。
Yの分布をF_yからG_yの方向に変更したときに、\mu(\cdot)
どのように変化するのを表現するのが、influence functionである

なるほど、わからん。
とりあえずこの時点で理解しようとすることはあきらめ、読み進めていく。

F_{Y, t \cdot G_y}= (1-t) F_Y + tG_Yとして、F_YG_Yの凸結合をとる。
そして、\mu(F_{Y, t \cdot G_y}) のtについての微分をとると、

とると....?とると?

f:id:ronri_rukeichi:20201028184841p:plain
Influence functionの定義部分


理解不能すぎて頭が消し飛んだ。これはなんだ。誰を欺くための暗号なのか。
しかし仕事が一緒に消し飛んでくれるわけでもわけでもないので、なんとか食らいついてみる。


恥ずかしながら正直に白状するとこの式の左辺と右辺の間になぜ等式が成り立つのかは分からない(関数同士で差分をとるな。もうその時点で脳が死ぬ)。
だが、とりあえず現目的としてはInfluence functionの定義だけ追えればよいので、
最後の積分の中に出てきた微分がinfluence functionと呼ばれるもの」という内実だけ理解に努めよう。

その微分項とは、\frac{\partial \nu(F_{Y, t \cdot \Delta_y})}{\partial t}である。これだけなら私のような愚民にもまだ理解できる。

\Delta_yY= yを確率1でとる分布であるから、
上の微分influence functionは分布をF_yから\Delta_yにごく微小なだけ近づけたときの\nuの変化割合を表わしているといえる。
これをIF( y, \nu)Yではなくyなのがキモ)と表記する。

参考URL②には、もう少し実用的というか私のような数学音痴でもわかりやすいようなIF別表現がある。
ディラック・デルタの関数(\delta(0) = 1で、それ以外のx\neq0に対しては\delta(x) = 0となるようなmass function)をもちいたものだ。

確率変数yの累積確率密度関数微分(ようするに確率密度関数)以下のようにあらわす混合分布関数をまず考える。
P_{x, \epsilon}(Y)を、Y= xのところで密度1をとるディラックデルタ関数\delta(x- Y)\epsilonの割合だけ元の密度関数p(Y)に混ぜたものの累積密度関数とする。
\frac {dP_{x, \epsilon}}{dy} = (1-\epsilon) p(y) + \epsilon \delta(x -y)


すると、この密度関数をつかった場合の統計量の表現を\epsilonにかんして微分したものがIFになる、ことである。


◆平均の場合のIF
平均値の場合は割と簡単である。
M( P_{x, \epsilon})  = (1-\epsilon) \int dP(y)  + \epsilon \int y  \delta( x- y) dy
=(1-\epsilon)\mu + \epsilon x
( \because dP(y) = \frac{dP(y)}{dy} dy = p(y) dy)
なので、これを微分していくと
 IF( \mu , x) = x- \muが得られる

◆分位点の場合のIF

分位点について考えるときは、若干の場合分けが必要となるので、やや煩雑になる。
まず微分する前の混合確率密度関数をどう考えるか、というところからである。

分位点とmass functionの大小関係によって場合わけをしたうえで、
もとの累積密度関数P(y)を使って分位点と対応する累積密度\pi(中央値だったら0.5, 四分位点だったら0.25)の関係を表わすことを考える。

参照URL2のp.13-14くらいにも解説されているが、おおよそ元の関数におけるP^{-1}(\pi ) (分位点)とmass functionの大小関係によって以下のように変動する。

  •  (1- \epsilon ) P(x) + \epsilon < \piのとき、 P^{-1}_{x, \epsilon} ( \pi) = P^{-1}(\frac{\pi  -\epsilon}{1-\epsilon})
  •   (1- \epsilon ) P(x) \leq  \pi \leq (1- \epsilon ) P(x) + \epsilonのとき  P^{-1}_{x, \epsilon} ( \pi) = x
  •  (1- \epsilon ) P(x)> \piのとき、 P^{-1}_{x, \epsilon} ( \pi) = P^{-1}(\frac{\pi }{1-\epsilon})

たとえば一番上の場合は、mass functionが元の分位点よりも左側にある場合で、\epsilonだけmass functionの密度があるから、残りの\pi - \epsilonを元の密度関数(ただし(1-\epsilon)倍されているからとってくる必要があるので、P^{-1}(\frac{\pi  -\epsilon}{1-\epsilon})が、混合分布関数において求める分位点になる、ということである。

f:id:ronri_rukeichi:20201029142015p:plain
mass functionと分位点の大小関係における場合分け

さて、ここからIFを求めるには、\epsilonについて、上式の分位点関数を微分すればよい*2

たとえば一番上の場合においては

f:id:ronri_rukeichi:20201029143429p:plain
IFの導出過程

となる。右辺第一項では逆関数微分公式を、第二項では分数函数微分公式を利用している。

その結果、以下のようなIFが得られる。

f:id:ronri_rukeichi:20201029144053p:plain
分位点のIF関数

いや、めんどくさいよなこれ......

②:じゃあRIFとは何ぞや

IFを理解できたのでやっとRIF(recenteredなIF)の理解にうつることができる。
ふたたび上の参考URLより、定義の部分を抜粋しよう。

RIFは、興味のある統計量のinfluence functionを、
その期待値が興味のある統計量になるように調整(この作業がrecentering)したものである。

わかるようなわからんような....なので。
もっとわかりやすく言いかえると、

IFに目標の統計量を足すとRIFになる

ということである。

よって分位点の場合は、分位点の値をq_\alpha、でその比率(さきほどまでは\piとしていたもの)を\alphaとすると、

f:id:ronri_rukeichi:20201029150305p:plain
分位点のrecenterd influence function

(参考URL1より抜粋)

ここまでが長い。とてつもなく長い。

RIF回帰の仕組み

RIFが何かを理解できたので、やっとRIF回帰にたどり着く。
結論からいうと、RIF回帰とは、従属変数をRIFにしたただのOLSである。
RIFの指標をつくるまでが大変で、あとは普通に回帰をすればいい。

RIFを作成するうえで、分位点q_\alphaはそのままデータからもとめればよいので、少し骨なのがf_Y(q_\alpha)であるが、そこは元データのyの分布からカーネル密度推定を行うことで、対処する。

あーそれで下の記事を書いたんだった(ここでやっと記憶がよみがえる)
ronri-rukeichi.hatenablog.com


而して、なんとか記憶を復元することができた。
めでたし、めでたし。


『パラダイム』(full MV)/ アンダーグラフ

Enjoy!!

*1:という二分法的な認識自体がかなりナンセンスではあるが

*2:ここまでの道程がなげぇ